成果報告
2017年度
楠田實と1955年体制下の自民党政治-文化人/知識人と政治をつなぐ個人・制度・構造
- 駒澤大学法学部 教授
- 村井 良太
1.研究の目的
本研究の目的は、戦後最長を記録した佐藤栄作政権で内閣総理大臣秘書官を務め、メディア対策に止まらず、政治と知的コミュニティの結節点の役割を果たした楠田實の活動を通して、1955年体制下の自民党政治における「知と政治」を内政・外交を通じて歴史的に解明することである。
2.研究の進捗・成果
本研究の分析の基礎には、楠田氏が残し、研究メンバーでもある和田純が所蔵する資料がある。そのうち佐藤政権期のものについては、和田純編『オンライン版楠田實資料(佐藤栄作官邸文書)』(丸善雄松堂、2016年)で刊行されている。
本研究グループは、生前の楠田氏をよく知り、自らも「21世紀日本の構想」懇談会担当室長として「知と政治」をつなぐ現場を経験した和田、関連する多くのドキュメンタリー制作を通して多くの関係者に面会してきた宮川徹志、そして、テーマに関係する日本政治外交史の中堅研究者から、沖縄返還に詳しい中島琢磨、日中関係に詳しい井上正也、首相官邸研究の村井哲也、そして政党政治に関心のある村井良太が参加し、それぞれに資料や関連文献等を読み込みつつ、メンバーの多角的で濃密な議論を重ねるスタイルで行ってきた。
第1回研究会(2017年9月)、第2回研究会(11月)、第3回研究会(2018年1月)、第4回研究会(4月)、第5回研究会(7月)を、それぞれ東京と京都で開き、報告と議論を重ねた。焦点は三つあり、第1に、結集期というべき、佐藤政権下で文化人/知識人の学識が政権の政策に取り入れられていく過程、第2に、展開期と言うべき、楠田の築いた知的ネットワークが佐藤政権の後、楠田政権やそれ以後にも展開していく過程、そして第3に楠田氏個人について、活動の基盤となった制度や構造に注目してきた。
3.今後の展望
本研究会は2018年7月末をもって第一期を終了したが、引き続き2019年7月末までの継続助成を受けることとなった。上記、定例研究会での報告や議論を糧として、各自が個々に研究や作品等を発表し、社会に知見を提供していくだけでなく、「佐藤政治と楠田實」についてまとまったかたちで社会に問いかけるために共著の出版計画が進んでいる。
そして、佐藤政権期以後も視野に入れた本研究は、1955年体制下の自民党政治における「知と政治」のダイナミックな展開を、将来的には、明治以来の長期的系譜の中に正しく位置づけ、現在を理解する手がかりとなると考えている。
2018年8月