サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 戦争と人間の本性に関する進化考古学的研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2017年度

戦争と人間の本性に関する進化考古学的研究

岡山大学大学院社会文化科学研究科 教授
松本 直子

1. 研究目的

近年、先史時代の人骨データに基づき、「戦争(集団間の暴力的対立)は人類の本性に深く根ざしている」とする研究が海外でなされているが、申請者らは縄文時代の受傷人骨をデータとしてその反証となる論文を発表した(Nakao et al. 2016)。本研究の目的は、その成果を古墳時代にまで発展させ、戦争の発生・抑制に関わる要因を具体的に明らかにすることにより、日本列島における歴史の解明とともに、ヒトの本性に関わる普遍的議論にも大きく貢献することを目指すものである。縄文時代から古墳時代までの長期にわたる人骨データをもとに、暴力による死亡率とその内容を解析し、日本列島における暴力・戦争の歴史的動態を明らかにし、さらに遺跡数の変化から推定される人口変動、環境変化などのデータと合わせて分析することにより、戦争の発生・抑止要因を数理的・考古学的に検討する。

2. 研究成果の概要

弥生時代に受傷人骨データが充実している弥生時代中期の北部九州の資料を用いて、受傷人骨頻度と人口動態の関係について分析した。この時期の北部九州では甕棺という大形の専用土器棺を用いた埋葬を行うため、人骨の遺存状況がよく、また甕棺の数から人口動態を推定することもできる。甕棺から推定した人口動態と、食糧生産に関わる平野面積、人骨にみられる受傷率の関係を分析したところ、従来の年代観に基づけば人口増加が受傷人骨頻度増加と有意に相関するように見えるものの、近年の放射性炭素年代の成果に即して分析すると、受傷人骨頻度の増加は人口動態によって単純に説明することはできないことがわかった。環境・社会的要因によって集団ごとに暴力の発生状況が異なっている可能性が示唆され、さらに多角的な検討を進めていくことが必要である。この研究成果に関しては現在論文を投稿・修正中であり、年度内には公開できるはずである。

古墳時代について、現在わかっている全ての出土人骨の情報を収集し,受傷人骨の出土頻度を計算した。その結果、受傷人骨の頻度は縄文時代よりも低く、古墳時代全体では1%を切ることがわかった。考古学的に確認される武器の生産・副葬の状況から軍事組織が発達したことが明らかな古墳時代において受傷率が低いというデータをどのように解釈すべきか、さらに検討する必要がある。実際の戦闘行為が少なかったことを示すのか、それとも戦闘が主として対外的行われたため戦死者が古墳に埋葬されなかったことによるのか、それ以外のなんらかのバイアスが存在するのか、といった可能性について、今後検討していく必要がある。古墳時代人骨のデータベースも現在作成中であり、近々公開できる予定である。

また、上記研究成果を踏まえ、南山大学人類学研究所と共同での公開シンポジウムを予定している。こちらも年内には開催できると考えている。

2018年8月

サントリー文化財団