成果報告
2017年度
和紙技術・文化論の再構築をめざして:多言語による記録と伝世資料の比較検討による学際的研究
- 高岡法科大学法学部 准教授
- 本多 俊彦
1.研究の目的
前近代の和紙について、文献の記録と紙の実物の定量観察の結果とを相互につきあわせて考証し、和紙の標準データベースとしての提示を目指す。
- ① 日本語・漢文(中国・朝鮮・ベトナム)・ポルトガル語・スペイン語など、多言語にわたる和紙の記録から、抄紙技術に関する記述を精確に解読する。
- ② 物理的測定・光学的観察により古文書原本や素性の確かな未使用古紙を定量化し、得られたデータと文献資料の内容とを比較検討する。
- ③ 上記の結果に基づき、構成繊維や填料などの画像データを付して和紙の紙種判定のための標準データベースを公開する。
これによって、従来の和紙技術論・文化論に再検討を迫るのみならず、古文書学や保存科学などにとっても有用な、記録媒体としての紙を総合的に捉えるための基盤にもなり得る。
2.研究成果の概要
本研究は、2017年度と2018年度の2年計画で進めているものである。その初年度の2017年度においては、次のような研究活動を行った。
(1)歴史的紙種名称と現存する古文書原本文書との科学的同定作業
- ①越前国今立郡岩本村内田家文書の調査
織豊期から江戸初期の「杉原紙」や越前産の「鳥の子紙」の料紙データを得られたことは、前近代の越前和紙標準データの獲得として大きな成果である。
- ②東アジア産紙サンプルからの紙質データ採取
東アジアにおける紙種判断のための標準データベース作成を目指し、関義城『古今東亜紙譜』(1957年)所収の東アジア産紙サンプルから紙質データを採取した。
- ③京都大学東南アジア地域研究研究所との合同調査
京都大学東南アジア地域研究研究所所蔵の漢字・字喃経典の料紙について、同所と合同調査を実施し、紙質データの採取作業を進めている。
(2)外国語資料の解読からの抄紙技術の検討
フランスの天文学者ジョセフ・ジェローム・ド・ラランドがヨーロッパの製紙技術をまとめた著書“Art de faire le papier”所収の「日本の紙」部分の訳出を行い、抄紙技術検討の俎上に載せた。
以上の研究活動の一部については、既に公表されているものもある。2018年度は、2017年度に得られた紙質データをまとめて公開を目指すとともに、多言語資料の解読から前近代抄紙技術の具体相に迫ることを目指していく予定である。
2018年8月