サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > グループの規模がその行動に与える影響の研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2017年度

グループの規模がその行動に与える影響の研究

金沢大学国際基幹教育院 准教授
藤本 茂

グローバリゼーションが語られる一方で、社会資本としての地域のネットワークや、顔の見える人的つながりである「社交」の重要性も、つとに指摘されている。その中で注目すべき現象の一つに、インド中国など、桁外れの人口規模を誇る国の急速な台頭があげられる。こうした国の統治は、小国のそれと質的に同じなのだろうか。この点を踏まえ、本研究の目的を以下の二点に置く。第一に、グループのサイズが、グループのガバナンスや対外行動にどのような影響を及ぼすのかを、検討することにある。サイズの大きなグループは動員できる資源量が大きいので、競争上有利なはずである。よって淘汰が起これば少数のサイズの大きなグループへと収斂するはずだが、独立国の数は増えているし、生物界でも種はむしろ多様化している。第二は、異なったサイズのグループが混在するシステムが、全体としてどのような振る舞いをするのかという点について、洞察を深めることにある。

この目的を達成するため、先ずは、グループの具体例として国家に焦点を置くこととした。そして、政治学の古典的関心事でもある「国家の規模とガバナンス」の関係の解明に、先述の二点の研究目的に沿った研究項目を設置し、各々を有機的に連携させることで取り組むこととした。その具体的研究項目は、1)国家の規模およびガバナンスを示す要素の確定と両者の相互作用の解明、2)規模とガバナンス構造に基づく内部システムを保有する各国家ならびに、それらが構成する国際システムの間の相互作用の解明である。

本年は、二度の研究合宿を通じて、上記の研究方針・戦略を確定するとともに、各研究項目で以下の取り組みを行った。

1)国家の規模は「GDPと人口」で説明されること、政治体制というガバナンス体系が各国のGDPとその成長に影響すること、G7諸国に比したBRICSなど新興国の異質性を統計分析により明らかにした。これらの分析と中間報告でのコメントを基に、国家のガバナンスを示す指標について検討を進め、世界銀行によるWorldwide Governance Indicators :WGIを当面用いることとした。(WGIの具体的構成要素は、Voice and Accountability・Political Stability and Absence of Violence・Government Effectiveness・Regulatory Quality・Rule of Law・Control of Corruptionである。)これらを基に今後は、主に統計分析を通じて両者間の相互作用の構造解明ならびにガバナンス指標の更なる洗練に取り組む事とした。

2)次の二種類の基礎的な計算機実験を実施することで、国家の対外行動と国際システムの相互作用に見通しをもつこととした。

  • ① 政治・経済・情報という各「場」において、文化的属性が異なる国家間の協調と対立のプロセスをみることで、イギリスやアメリカに代表される「場」の制御に能力を有するDeterritorial empireの出現や「場」の規模とガバナンスのトレード・オフに基づく帝国のジレンマ、帝国間の対立と棲み分けの構造を検討していくことに着手した。
  • ② ノードとリンクの数で規模の大小が評価されるネットワーク(紐帯)において、その規模の変化のプロセスを辿ることで、紐帯全体の活力と硬直性の構造解明に着手した。この時、「ハブ」となるノードの存在が紐帯全体のパフォーマンスに与える影響と、「ハブ」の創発と消滅メカニズムには、特に注力して検討することとした。

以上述べてきた本研究の特色は、国際政治学・国際政治経済学・経済学・複雑系科学・進化ゲーム理論・知能情報工学など多様な専門分野での十分な実績に加えて、学問的割拠状況を打破する意欲と経験の豊富なメンバーで構成される研究グループによる、真の意味で学際的な協力を実現して、理論的に興味深く、実践的にも意味のある知見を獲得するための萌芽的かつ挑戦的取り組みである点にある。サントリー文化財団の皆さまには、我々のこの「志」をもご評価の上、温かいご支援を頂けたことに対し、衷心からの感謝を記して申しあげたい。

2018年8月

サントリー文化財団