成果報告
2017年度
「国境」としての沖縄をめぐるグローバル・アプローチの挑戦
- 獨協大学法学部 教授
- 福永 文夫
1.研究の目的
20世紀から21世紀にかけて進行したグローバル化の結果、主権国家を前提とする近代的国際秩序を象徴する「国境」も消えつつあると説明されてきた。しかし他方、近年の沖縄で見られる通り、「国境」に関する課題はむしろ増えており、「国境」としての沖縄とは何か、が問われている。本研究は沖縄を「国境」というグローバル・イシューとしてとらえ直し、新たな展望を開くことを目的としている。それは一つに、沖縄から見えてくる中央・地方関係における国家のアウトリーチの限界であり、もう一つに「国境」における地方の独自性である。加えて本研究では、戦後体制について、沖縄を含む日本だけでなく欧米・アジア太平洋にも視野を広げることで、その内容を確認し、そのなかで顕在化した「国境」の多面性という視点から戦後体制を再検討する。
2.研究で得られた知見
本年度は2017年11月、12月、2018年2月、4月、6月、7月に計9回の研究会を行った。研究会では、大きく2つの方向から問題を検討した。一つは、これまで余り言及されることのなかった沖縄の「保守」について、保守系=自民党系政治家(儀間文男、國場幸之助の2氏)からのヒアリングであり、もう一つは、沖縄を含む日本の戦後体制の相対化さらには総体化を試みるための、欧米(イタリア、フランス)・アジア太平洋(マレーシア、タイ、オーストラリア)の戦後のあり方の検討である。
儀間、國場の両氏はそれぞれ、県知事を務めた西銘順治、稲嶺恵一氏に身近で接してきた人である。返還前後から顕在化してきた沖縄の保革対立構造について、2極対立とは異なる沖縄の戦後像について示唆を得た。日米安保に理解を示しつつ、基地問題に異議申し立てを行った「オール沖縄」との近親性と相違点、さらには橋本・小渕元首相ら経世会系が沖縄に対し深い理解を示していたのに対し、小泉・安倍両首相ら清和会系は無関心あるいは冷淡であったという経験的事実である。
当たり前のことだが、国それぞれで戦後のあり方は多様である。マレーシア、ビルマ(現ミャンマー)、シンガポール、ブルネイは、政治・経済・社会・文化諸次元で織りなすボーダー(ギャップ)は、同じ英領植民地でありながら、異なる国境を、戦後を形成した。これらの国にとって戦後とは独立後であり、これまでの戦前・戦時との連続と断絶とは異なる視座を示唆している。イタリアの事例は、米国の世界戦略を基底とするマーシャル・プランの受入れ方と誰が担うかという問題を示唆した。またフランスの場合、マイノリティとしての移民の統合の視点から、戦後体制のあり方をうかがうことができる。
今後は、これらの知見をもとに、地理的のみならず、グローバルな世界の境界に位置する沖縄がもつ独自性を摘出し、沖縄を含めた日本の戦後のあり方を再考・展望する作業が必要であり、その際欧米・アジア太平洋の戦後のあり方を政治・経済・社会の諸次元での比較・整理をしていきたい。
2018年8月