成果報告
2017年度
文化的・人間行動的特性と医療制度のあり方
- 大阪大学経営企画オフィス 准教授
- 平井 啓
【研究会の目的】
課題:日本の医療の制度設計:文化や人間の特性を考慮せず、患者や医師が情報さえ与えられれば、合理的な意思決定を前提→さまざまなコミュニケーションや効率性の問題:終末期における積極的治療、臓器移植ドナーの不足、子宮頸がんワクチンの積極的接種の中止、HIV陽性者の受療行動、認知症患者の意思決定等。 解決策:伝統的経済学の合理的な意思決定モデル→臨床医、公衆衛生学、心理学、文化人類学、経済学の研究者から構成される学際的研究会を組織し、「行動経済学的考え方=合理性を前提としない人の判断についての思考の枠組み」を理解し、その応用の具体的方法について検討する。
→2017度の研究においては、医療行動経済学研究会議の議論を基盤として、医師と患者の意思決定支援システムを構築のための思考法と方法論に関する知見をまとめた書籍「医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者」を刊行することにより,「医療行動経済学」が医療分野における1つの学術分野として確立することを目指した。
【医療行動経済学研究会の実施と研究成果の書籍化】
昨年度発足した、心理学者・経済学者・予防医学研究者・医師(緩和ケア・内科・婦人科・精神科・循環器内科等)・文化人類学者等の多分野の研究者と実践家が参加する医療行動経済学研究会議を3回(H29.10.29;H30.1.21;H30.4.21)と書籍出版記念フォーラム(H30.8.4)を開催し、延116名が参加した。
研究会議では、各研究テーマの精査や進捗状況の確認を行うとともに,いままで蓄積した研究成果や議論を元に書籍の構成を決定。その後、構成案を軸に,各研究テーマの執筆担当者が原稿案を持ち寄り,書籍全体の焦点のすり合わせを行うとともに,原稿完成に向けて各原稿の深化のための議論を重ね、書籍化を進めていった。出版社である東洋経済新報社へ原稿を入稿後、2回の校正を経て6月末に原稿を最終化し、7月27日に出版社より書籍「医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者」を刊行した。
書籍出版を記念し、8月4日に東京にて、一般公開の形でフォーラムを開催。『医療現場の行動経済学』の内容紹介に加えて、執筆者の対談やディスカッションを交えながら、医者と患者のそれぞれの意思決定のあり方、「医療行動経済学」の今後の可能性について議論を行った。
【研究成果と進捗】
- ・ [書籍化計画]「医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者」を東洋経済新報社より2018年7月27日に刊行した。大竹文雄教授をはじめとする本研究共同研究者メンバー他,総計17名にて執筆を行った。書籍の初版は4,000部が発売され、8月中旬には3,000部の増刷が決定。幅広い読者層を獲得し、好評を得ている。
- ・ [調査研究計画]積極的抗がん治療の中止に際する医師からの説明に関する行動経済学的研究:東北大学・大阪大学共同研究→国際学会・国内学会にて発表済み
- ・ [調査研究計画]免許更新時における臓器提供意思表示促進のための行動経済学的介入研究:厚生労働省研究班・日本臓器移植ネットワークとの共同研究。→臓器提供意思表示の行動変容と準備性に対して,最も意思表示を高めるメッセージを特定するための調査を,某免許更新センターにて運転免許証更新者を対象に、3月に実施。3,727のアンケート回答数を得て、現在分析を進めている。
【今後の展望】
引き続き、関連する研究計画の実施と、医療現場での実践を通じた研究を行い、実証化を進めていく。
2018年8月