成果報告
2017年度
科学・技術と社会に関する学融合的研究
- 獨協大学国際教養学部 准教授
- 野澤 聡
本研究会は、科学技術の高度化・専門化・細分化がますます加速し、専門家間や専門家と非専門家との間で意思疎通や協働が困難になっている現状において、科学・技術と社会について学融合的な議論をおこなうことによって、我々の社会において科学・技術の進むべき方向性についてのビジョンを提示することを目指すものである。2017年度は、主として科学技術行政に関わってこられた研究者に報告していただき、出席者の間で議論をおこなった。
第1回の研究会は2017年11月20日に開催され、科学技術行政と高等教育論を専門とする塚原修一氏(関西国際大学客員教授・国立教育政策研究所名誉職員)から、「大学史研究会の初期の状況について」と題する報告を受けた。1966年に設立された大学史研究会は、大学のマス化という世界的潮流を背景とし、伝統的な歴史学に限定しない大学研究の場になっていたことが報告された。研究会にはメンバーに加えて中央官庁で行政に携わる実務者も複数参加しており、歴史・教育・行政・研究など多様な観点から活発な議論がなされた。
第2回の研究会は2018年3月2日に開催され、科学技術行政と科学技術計量学を専門とする桑原輝隆氏(政策研究大学院大学教授・元科学技術・学術政策研究所所長)から、「科学技術政策研究が政策に貢献できるとき、できないとき」と題する報告を受けた。科学技術・学術政策研究所は、国の科学技術政策立案プロセスの一翼を担うために設置された文部科学省直轄の国立試験研究機関であり、研究と行政の双方に関わっているが、両者を有機的に結合させるのは困難なことが多い。研究会にはメンバーに加えて中央官庁で行政に携わる実務者も複数参加しており、歴史・行政・研究・キャリア形成など多様な観点から活発な議論がなされた。
第3回の研究会は2018年5月11日に開催され、科学技術行政と工学を専門とする岩田一明氏(大阪大学名誉教授・神戸大学名誉教授・新鋭経営会会長)から、「研究全霊50年、いま恩送り」と題する報告を受けた。岩田氏は大学で工学の研究教育に携わる中で学際的活動や異分野間連携の重要性を痛感し、企業で次代の経営を担う人たちと新鋭経営会を開催されてきた。岩田氏の活動は非常に広範な示唆に富んでおり、経営・産学官連携・研究など多様な観点から活発な議論がなされた。
第4回の研究会は2018年7月31日に開催され、メンバーの中島秀人東京工業大学教授から、「マイケル・ポラニーの科学研究―KWG時代を中心として」と題する報告を受けた。マイケル・ポラニーは量子化学と科学論で著名な研究だが、東京工業大学を始めとして日本の化学者たちとも関わりが深い。研究会にはメンバーに加えて物理学史などを研究する若手の研究者も複数参加しており、研究・教育・研究伝播・分野形成・大学運営など多様な観点から活発な議論がなされた。
上記のように、2017年度の研究会は、主として科学技術行政における歴史的な事例についての報告を受けて議論をおこなった。メンバーに加えて行政に携わる実務者など多様な出席者と議論を重ねることによって、問題意識を共有することができたと考えている。2018年度はさらに若手の実務者や研究者も出席者に加えて議論を深める予定である。
2018年8月