成果報告
2017年度
日本の老舗企業の事業承継とその特徴~東アジアの共通性と特殊性~
- 立命館大学経営学部 助教
- 竇 少杰
日本は世界一の長寿企業大国であり、これらの長寿企業の多くは家族企業だとも言われている。本研究の研究目的は、日本、韓国、中国大陸と台湾の家族企業に対してヒアリング調査を行い、中国大陸や台湾、韓国と国際比較研究を通じて日本の老舗家族企業の企業経営と家族経営における特徴を探り、社会学と経営学、この二つの視点から日本になぜこれほど多くの老舗家族企業が存在するのか、その理由を解明することである。
これまでの研究を通じて、研究チームは日本国内の老舗企業、そして中国大陸、台湾、韓国の事例家族企業に対してケーススタディを行い、以下の中間的な見解を得られた。
日本の老舗家族企業は企業経営において経営理念や家訓の浸透を重要視しており、経営判断や企業内の制度設計などは一貫としてきた経営理念や家訓に基づいて行われている。そして老舗といえば保守的というイメージがある中、日本の老舗企業は保守的ではなく、むしろイノベーション力が非常に高い。「伝統とは革新の連続である」、「不易流行」はまさに日本の老舗企業の経営における最も重要な特徴であろう。家族経営においても、日本の老舗家族企業は後継者の考え方、理念、家訓、生活習慣に関する教育を大事にしており、後継者を選別する際にしても、当該者は常に家訓や家族の考え方に基づいて行動しているかどうかを重要なチェック項目として挙げられている。また家族関係の維持についても、家訓や遺言書、事業継承のルールなど、様々な形で株と土地の分配を決定し、後継者と非後継者の権限や義務などをしっかり設定するケースも見られている。養子文化や襲名のやり方も日本の老舗家族企業の事業承継における重要な特徴である。
それに対して、中国大陸や台湾、そして韓国の家族企業のほとんどは初代から二代目へ、あるいは二代目から三代目への事業承継の最中であり、企業経営にはイノベーション精神が非常に旺盛であるが、企業の経営理念や基本的な考え方はまだ設定していない、あるいは十分に定着していないところが多い。そして家族経営において、後継者教育は依然として経営方法や経営資源の獲得などの伝授がメインであり、家族文化やルールなどの形成は日本の老舗家族企業に比べてみるとかなり不十分である。また、同じ東アジアの国々でも、血縁に対する考え方は日本と大きな相違があり、家・家族・家族関係に対する考え方も異なっている。
家族企業の事業承継における企業経営と家族経営の共通点と相違点を探りながら、東アジアに位置する日本、韓国、中国大陸と台湾の家文化の特徴を明らかにすることは今後の課題である。
2018年8月