成果報告
2017年度
満洲の体育・スポーツに関する学際的研究-基礎的資料の作成と総合的実証-
- 京都大学大学院文学研究科 准教授
- 高嶋 航
満洲は帝国日本におけるスポーツの中心の一つだったにもかかわらず、同地のスポーツの実態は、日仏競技(1927)、都市対抗野球での三連覇(1927-1929)のような若干の例外を除いて、ほとんど知られていない。同じ「外地」でも、朝鮮や台湾では現地の研究者や日本の研究者によって研究が進められつつある。本研究は、帝国日本のスポーツを考察するうえでミッシングリンクとなっている満洲を対象に、その実態を解明するための第一段階として、関連資料の収集、整理を実施することを目的にしている。
昨年度の研究を通じて、満洲の体育・スポーツに関する資料のうち国内に所蔵する分についてはおおよそ全体像を把握することができた。そこで本年度は大連に赴き、中国での資料状況を把握するとともに、当時のスポーツ施設の現状についても調査をおこなった。
本研究の中心資料となる『満洲日日新聞/満洲日報』は昨年度末までに6,500頁分をコピーしていたが、本年度はさらに5,500頁分をコピーするとともに、『大連新聞』についても2,000頁分収集した。満洲国成立以前については、『満洲日日新聞/満洲日報』はすべて、『大連新聞』は1/2を収集したことになる。満洲国時期については今後も収集を続けていきたいと考えている。
資料収集と並行して年表・資料集の作成をおこない、その分量は100万字に達した。これらのデータをもとにして、個別の研究を進めており、今年度は論文2本を公刊することができた。
金誠「リットン調査団と満洲国建国記念連合大運動会:関東軍による宣伝・宣撫工作としてのスポーツ」『札幌大学総合論叢』44号、2017年10月高嶋航「満洲における日中スポーツ交流(1906-1932):すれちがう「親善」『京都大学文学部研究紀要』57号、2018年3月
いずれも満洲国にとってのスポーツの意味を問うたもので、今後の満洲スポーツ史研究の出発点になると確信している。
2年間にわたる資料の収集・整理を通して、少なくとも満洲国建国にいたる時期までの満洲の体育・スポーツの概容については、おおむね把握することができた。本研究期間内には論文2本しか公刊に至らなかったものの、今後は本研究で得られた知見を積極的にアウトプットしていくつもりである。
2018年7月