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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2017年度

科学技術と社会革新の再編成をめざす国際拠点

フランス国立社会科学高等研究院 教授
Sébastien Lechevalier

本研究は、欧州と東アジアという現代世界の中でも最も発達した二つの地域の現状をイノベーションという側面から比較分析し、かつ持続可能な未来を可能にするための科学技術をめぐる制度的課題の共有へ向けた、新たな国際的研究基盤を構築することを目的とした日仏共同研究である。本研究グループは、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) が平成27年6月に締結した協力協定に基づいて企画され、平成28年9月に東京にて開催した国際ワークショップ「Innovation beyond technique」を契機に、共同研究体制を構築した。初年度においては、研究ネットワークの深化を目的に、イノベーション比較研究に関するキーワードを確定する作業を行った。そして、経済学、経営学、政策研究、法学および科学技術社会論のそれぞれの観点から、リニア型イノベーション・モデルを批判的に検討し、従来の競争的枠組みを超えた社会技術イノベーション政策の可能性を考究するための仮説群を構築した。

平成28年度は、それらの仮説を、申請者がこれまで行ってきた多様性に立脚したイノベーション・システム論研究の成果、また共同研究チームで行ったセクター別アプローチによる調査結果(生物工学、情報通信技術、半導体産業、都市工学、環境工学、製薬産業)を基盤として吟味した。特に、従来の「産業経済の問題体系」に代えて「社会構築の問題体系」と捉えることで、各イノベーション・モデルがそれぞれ異なる社会的紐帯の種類とその規範的な規制と関連していることを示し(コンソーシアム型、地域協働型、デジタル経済、福祉社会など)、それらが方向性に対応する能力を複合的に検証した。

実践的な知識、そして社会の関与は、民主主義にとってはもちろんのこと実際のイノベーションを創出する上でも重要であり、人々のニーズを表現する能力、つまり科学技術的問題に対する集団的知性を体系化する社会の能力が問われる。そこで公的異議申立てが社会的問題解決に寄与してきた事例に注目し、社会技術イノベーションの創出プロセスにおける個人的、集団的経験、規範、制度的要素、社会構造の役割について共通点と相違点を洗い出した。

以上の調査および議論をとおして共同研究基盤となる知見を充実させ、「イノベーションの諸相」「社会技術の構築プロセス」「イノベーションの源泉としての抗議および拒否」という三つの軸に沿ってこれまでの共同研究成果を英文にまとめ、日本側フランス側ともに精読を行った。

パリOECD本部および東京にて研究会を開催し、OECDおよび日仏両国の科学政策アドバイザーを務めるアクターを交え共同研究の中間発表を実施した。また、平成30年6月に京都にて開催されたSASE年次総会にて主要成果の公表と今後の方向性に関する議論を行った。最終成果として「Innovation beyond technology : Science for society and interdisciplinary approaches」を平成30年にSpringer 出版社より刊行する予定である。

本共同研究の遂行を通して、日仏研究者および関連研究機関とのネットワークを確立・強化することができた。引き続き本プロジェクトメンバーの複数の出張および滞在研究が計画されており、平成30年12月には東京にて新たな研究会を行う。今後はさらにそれをどのように継続・発展していくべきか、若手研究者の育成を含めた長期的な取組みのための研究が求められる。

2018年8月

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