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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2017年度

東アジアにおける安全保障秩序の変容

神奈川大学法学部 准教授
佐橋 亮

戦後東アジアにおける秩序は、アメリカと各国の同盟―いわゆるハブ・アンド・スポークスの同盟構造であり、アメリカの主導性と階層的な構造−を基礎にとして、その上に、リベラル民主主義がやがて拡大し、経済発展、そして相互依存が展開されてきた。

アメリカの主導性にとって転換点になり得る出来事は歴史上、いくつもあった。たとえばニクソン・ドクトリン、冷戦終結、テロとの戦い、グローバル金融危機をあげることができる。中国の台頭、またオバマ政権に萌芽していたアメリカの対外関与姿勢の変化も新しいダイナミズムを生んだ。そしてトランプ政権の誕生は各国の秩序に対する見方におおきく影響しはじめている。米中両国が秩序のあり方をめぐる視線を変えつつあることに加え、各国の対応も従来の枠を越えつつある。

本研究は、とりわけ冷戦終結後に、地域秩序を各国はどのように描き、そしてそれが秩序形成にどのようにつながってきたのか、探求するものである。将来を予測することは主たる目的ではないが、過去25年余りにわたる秩序の模索を明らかにすることで考察の土台を提供することができる。

我々は、理論・地域研究をバックグラウンドに持つ研究グループを組織し、比較を試みている。従来、秩序をめぐる議論ではアメリカ、中国を中心に議論する傾向が強かったが、本研究グループにはロシア、豪州、インド、ASEAN、日本、韓国の専門家を含めており、多角的な議論が可能になっている。

研究助成期間において、概念、方法論についてメンバー間での議論を深めることができた。

  • ①クリントン政権による地域秩序構想と関与政策の問題点が指摘された。すなわち短期的には中国をリベラルな覇権に引き込み、日米同盟も強化したが、長期的には中国の成長に起因する秩序、さらに抑止への影響を制御できなかった。
  • ②中国において新たな同盟観というべき、戦略パートナーシップ強化が国内での論争を招いていることがわかった。
  • ③豪州、さらに近年のインドにおいて対米協力関係と秩序構想は密接に関わっている。
  • ④韓国の地域秩序構想は、明確な危機の存在と良好な日韓関係に支えられた金大中時代をのぞけば、北朝鮮問題を中心にした東北アジアに限定されている。近年は経済実利から東南アジアなどを射程にした外交政策は強化されている。

成果は神奈川大学アジア研究センター紀要に続々と掲載しており、研究会の多くもその要約を同センターニュースレターでまとめている。

今後の課題として、秩序観・構想を比較する枠組みの構築、同盟や経済といった要因に加え制度やルール形成の視点の取り込みがある。

2018年8月

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