成果報告
2017年度
東アジア安全保障共同体構想に関する包括的研究-勢力均衡による平和からの脱却を目指して
- 広島市立大学広島平和研究所 所長
- 吉川 元
東アジアでは、各国政府は勢力均衡システムの上に築かれた平和の維持に汲々としている。世界有数の軍事大国が集中し、しかも4カ国の核保有国が位置する東アジアは、軍事的緊張関係が続く地帯である。国力の均衡を図ろうとする勢力均衡システムの下では、軍事同盟の関係と軍拡競争がつきものであり、そこで維持される平和は不安定で脆い。一方、非民主的体制、なかでも一党独裁政治体制の下では、国際平和時にあっても人間の安全は常に脅かされる。
本研究の目的は、勢力均衡システムから脱却し、東アジアに国際平和と人間の安全保障を両立させるような、自由で民主的な国から構成される安全保障共同体の構築を目指し、そのための具体的手順を示すこと、及びその研究成果を「ハンドブック」として刊行すること、にある。
安全保障共同体の構築の手立ての考案は、広島平和研究所の学術交流協定提携先である世宗研究所(韓国)と協力して進めており、中長期的には北東アジア平和協力構想(NAPCI)のイニシアチブを北東アジアに根付かせるよう、日中韓3カ国の研究者の協力と連携を模索してきた。
一方、ハンドブックの編集は着実に進展している。国際平和を脅かす核兵器開発の動き、及び人間の安全を保障するガバナンスの変革の動きを分析するために、アジア各地の、①核開発動向、②自由民主化に向けたガバナンス動向、③国際平和と安全保障を主導する国際機構の動向、の三つの分野を中心にアジア情勢の分析を行った。その研究・分析の成果であるハンドブック、広島平和研究所編『アジアの平和と核―国際関係の中の核開発とガバナンス』の編集作業は共同通信社及び韓国の世宗研究所の協力を得て目下、大詰めを迎えている。
なお、その成果の公開の一環として、本年3月17日‐18日、広島平和研究所主催「国際シンポジウム―アジアの核・ガバナンス・平和」(於、広島国際会議場)を開催し、中間報告を行った。同シンポジウムでは、李成賢(世宗研究所)、金聖哲(ソウル大学)、李鍾元(早稲田大学)、西田竜也(広島市立大学)、徐顕芬(平和研究所)など、ハンドブックの執筆者を中心に報告が行われた。また共同通信社と平和研究所の執筆者は、6月2日‐3日(広島市立大学サテライトキャンパス)、及び7月27日(共同通信社本社)の二度にわたって、合同編集会議を開催し、編集作業を進めた。
2018年8月