成果報告
2017年度
日本民謡の伝播と変容に関する学際的研究
- 同志社大学文化情報学部 助教
- 河瀬 彰宏
■研究グループの目的
本研究の目的は,日本民謡の地域的特徴――各地域の音楽を構成する要素とそれらの相互関係――を定量化・比較することにより,その伝播・変遷の実態を実証的に解明することである.この目的を達成するために,音楽学者の小泉文夫氏が提唱する理念「民謡は,文芸学,民俗学,音楽学の3つの側面から総合的に把握されるべきもの」(小泉1958)に即して,学際的研究に従事した.
■研究の進捗状況・成果
到達目標は次の3点である:
(1)日本全国の民謡に関する地域的特徴の関連性を実証的に解明すること
(2)地域間の音楽的特徴の差異を特徴量によって示すこと
(3)楽曲情報とその採録地域情報を相互参照可能な音楽コーパスが構築すること
日本民謡を電子データ化することで情報学的分析基盤となる日本民謡の楽曲コーパスを構築し,これに計量的分析を実施することで,旋律的特徴(音組織)を抽出した.音組織とは,旋律に内在する法則であり,ある文化の音組織を捉えることは,その文化の音楽を形成する音の相互的関係,伝播,変容,普遍性の解明につながると考えられている.研究代表者らは,これまでに中国地方・九州地方における日本民謡の計量的分析を実施し,地域間に隠された特徴を明らかにした.本研究グループではこれを全国的規模に拡張し,日本列島全体における民謡の地域情報学的分析を実施した.本研究課題では,この研究データを拡張させるために,『日本民謡大観』(日本放送協会出版,1944-1980)全9巻に掲載されている楽曲の採譜地域情報のリスト化作業を実施し,北海道から鹿児島県までの全楽曲の位置情報(地名・令制国名・経度および緯度の値)の取得を完了させた.また,各地域の音楽的特徴の伝播と普遍性を捉えるために,リスト化作業と並行して全楽曲をXML形式に変換・整備する作業を実施した.また,分析結果からは見えてこない音楽の地域性に関する情報を補間するために,2018年3月に宮崎県,7月に北海道において民謡の実地調査を実施した.
■今後の課題
引き続き,地域間の相互関係(共通性・相違性)を具体的に明示し,日本民謡に内在する普遍的特徴を明示的に記述していく.また,地域内での分析と全国的規模での分析を試みるだけでなく,これまでに実施してきた地域間の比較分析に対する情報学的側面の問題点と民俗学的側面の考察を補強するために,民謡の実地調査を実施していく.
2018年8月