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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2017年度

北海道日本海沿岸地域のアイヌ民族が経験した19世紀-文献・モノ・絵画から近世・近代移行期のアイヌ社会を探る-

北海道博物館アイヌ民族文化研究センター センター長
小川 正人

○本研究の課題と方法

1) 本研究課題は、アイヌ民族の歴史・文化に関する研究の中でも重要な焦点の一つとされながら、既往の蓄積がとりわけて乏しい〈日本海沿岸地域〉の〈19世紀=近世-近代移行期〉を対象として、当該地域・時代のアイヌ民族の文化と社会の解明を目指すものである。〈近世・近代移行期〉とは、幕藩制国家の強い影響下にありながらも“異域”であった近世から、近代日本に編入される過程であり、特に〈日本海沿岸地域〉は、19世紀初頭には約1万人だった当該地域のアイヌ人口が19世紀末には2千人を切ったことに象徴される大きな変動を経験しており、かかる厳しい歴史過程はこの地域についての歴史資料や伝統文化の記録の乏しさにも繋がっている。

2) 本研究では、このような既往の資料・研究の状況を克服するための方法として、〈文献(近世・近代史研究)〈モノ(物質文化研究、流通史)〉〈絵図(アイヌ絵)〉さらに〈民族誌(口頭伝承を含む)〉の諸分野の研究者を主要メンバーとする共同研究の体制をとり、諸地域・諸分野の近年の研究を集積するとともに新たな資料調査を付加し、さらにメンバーの共同討議の場を設けることで、成果の検証と共有を通した積み上げを目指した。

○実施経過と主な成果

1) 2017年8月の助成開始以降、主に道内(札幌市ほか)及び道外(国立民族学博物館、東京国立博物館等)に所在する当該地域の民具資料や文献記録の調査を継続的に進めている。このことが本研究の基盤になっており、民具資料に関する新たな情報を得る等の成果を挙げている。

2) 後志地方の余市で1872年に行われた熊送りを描いた絵画を新たに確認できたことから、2018年4月に余市町で第1回の研究報告会を開催し、絵画の内容や特徴の分析、1872年当時の余市の社会状況等に関する報告とともに、資料調査の成果の一端として余市で製作されたアイヌ民具の概況を報告する機会を設けた。この報告会は本助成金により余市町で一般公開として開催することができ、研究を深める機会となるとともに、地元の人々にいち早く新たな資料の情報を提供する効果も得た。

3) 2018年7月に第2回の研究報告会をアイヌの耳飾りの形状・材質等に関する基礎的情報をテーマとして開催し、本助成金により多方面の識者の参席を得て、交易等で入手した素材による民具に焦点を当てた討議の機会とすることができた。

4) 個々の資料調査・研究打合せ及び研究報告会で得られた知見は、それぞれは個別の地域や資料即したものであって、まとまった歴史叙述の達成まではなお距離があるものの、早くに移住者が圧倒的な多数を占めるに至った特徴を持つ日本海沿岸地域にあって、移住者の社会と渡り合って近代を生きたアイヌの足跡やその中での伝統的な文化要素の在り方にも繋がる示唆を含む等、着実な前進を獲得できている。これらの成果は、上述のとおり2)でその一端を報告しているほか、今後、北海道博物館研究紀要で発表する等、随時公表・提供を進めていく。

○今後の課題と展望 

1) 本研究課題を実施する中で、対象地域・時期の重要性を改めて確認するとともに、研究の視点として〈モノ〉〈人〉の動き(交易・出稼ぎ・移住等)を加えることで地域の社会・文化の動態をより具体的に捉えることができると新たな課題と展望とを得た。

2) そこで本研究課題をさらに一年間延伸することとし、引き続き本助成金をいただけたことにより、〈日本海沿岸地域〉に隣接する諸地域(噴火湾沿岸、石狩川・天塩川の中・上流域、サハリン、オホーツク海沿岸等)との交流・交易・移動を新たに調査・検討の視野に加え、調査と研究討議を進める予定である。

2018年8月

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