成果報告
2017年度
感情の哲学の学際化に向けた国際的研究体制の構築:現象学的方法の検討を通じて
- 岡山大学大学院社会文化科学研究科 講師
- 植村 玄輝
さまざまな経験がその主体によって〈どのようなことか〉を研究する現象学的探求は、私たちの心の感情的・情動的側面を理解するために欠かせない。なぜなら、その主体にどのように感じられるかということは、感情・情動の中心的な特徴の一つだからである。しかしその一方で、現象学的な感情の哲学を経験的・実証的な科学と接続するのは容易ではない。これは、前者が一人称的・主観的な探求であるのに対して、後者は三人称的・客観的な探求であることに起因する・このギャップを埋める方法を、感情を主題として模索するのが本研究の狙いである。
本研究は、大まかには二つに分けることができる活動によって実施された。
第一の研究活動は、日本と欧州の現象学・感情の哲学・心の哲学の専門家からなる中心メンバー(植村、宮園、Salice、Montes Sánchez、Høffding)による共同研究(岡山大学、2018年6月)である。事前のオンラインミーティング(全6回)での予備的なディスカッションなどを通じた準備を踏まえ、中心メンバーは、全3回の連続セミナー(非公開)を通じて互いのアイディアを検討し、また共同研究のためのブレインストーミングを行った。また、2018年6月31および7月1日には、植村および宮園の科研費研究プロジェクトとの共同でワークショップ「Bridging Analytic and Phenomenological Approaches」(広島工業大学広島校舎)を開催し、中心メンバーのそれぞれが発表を行った。
第二の研究活動は、その他のメンバーを講師に迎えた日本語での連続セミナー(公開)である。「現象学的方法の諸相」と題され、2018年の5月から6月にかけて岡山大学にて三週連続で開催された全3回のセミナーでは、「現象学とエスノメソドロジー」(前田・酒井)、「現象学的考古学」(松本)、「現象学、精神医学、当事者研究」(石原・榊原)のテーマが取り上げられ、隣接領域における現象学的な方法の受容とその可能性(と限界)について、活発なディスカッションが交わされた。また、この連続セミナーに先立って、中心メンバーの一人である宮園を講師とした「分析哲学と現象学における内観的方法」(岡山大学、2017年11月23日)も開催された。
以上の研究期間をつうじて、中心メンバーのあいだで共著論文の執筆が進められ、2018年7月末までに、以下の論文が投稿済みないし準備中である。
- ● Salice & Uemura “Social Acts and Community. Walther between Husserl and Reinach” (submitted)
- ● Miyazono & Salice “Social Factors in Delusion Formation” (in progress)
2018年8月