成果報告
2017年度
アジア圏における国際出稼ぎ労働力移動の論理と実際-外国人農漁製造業労働力給源地域の実態調査と国際会議による接近-
- 東京大学大学院農学生命科学研究科 教授
- 安藤 光義
1.課題と方法
本研究の目的は、日本の外国人技能実習制度を検討素材として、アジア域内における国債労働力移動の現状と課題を把握することにある。具体的には、日本に技能実習生を送り出している機関の調査を行い、送り出し先としての日本の位置やその過程で生じている問題の検証を行う。また、2013~2015年度科研費(B)「農業の労働力調達と労働市場開放の論理」(研究代表者:堀口健治)および2016年度サントリー文化財団からの助成を受けた研究成果を踏まえ、日本への送り出し人数が急増しているベトナムで国際会議を開催し、日本の外国人技能実習制度の理解を深めてもらうとともに現地との意見交換を行う。
2.研究の成果①―国際会議の開催―
2017年11月20日にベトナム・フエ農林大学において「外国人技能実習生制度を通じた日本とアジアの間の国際労働力移動」をテーマに国際会議を開催した。日本から安藤光義(東京大学)、軍司聖詞(早稲田大学)、長谷川量平(鯉淵学園)が出席し、報告を行うとともに会議出席者との間で意見交換を行った。この会議を通じて、①ベトナム側に日本への外国人技能実習生送り出しのインセンティブがかなり存在していること、②技能実習期間中に身につけた日本語能力がベトナム帰国後の就職に際して有利に働いていること、などが明らかとなった。
2018年3月19日に東京大学において「外国人技能実習生制度の改正と今後の行方」をテーマにシンポジウムを開催した。参加者は50人を超え、マスコミ関係者の出席も多く、この問題に対する関心の高さを再認識することができた。シンポジウムでは農業だけでなく漁業、製造業の現状についての報告があり、現時点における外国人技能実習制度の全体像と課題を把握することができたと考える。なお、シンポジウムの状況の一部は『月刊養豚界』2018年5月号に収録、紹介されている。
3.研究の成果②―成果物の刊行―
外国人技能実習生に関するこれまでの研究グループの成果をとりまとめた図書として、研究メンバーである堀口健治編『日本の労働市場開放の現況と課題-農業における外国人技能実習生の重み-』筑波書房を2017年11月に刊行した。同書は日本の実情と課題はもちろん、アジアの送り出し諸国の事情、さらに日本以外の外国人労働力の受け入れ国の状況を一望することができる。また、駒井洋監修・津崎克彦編著『産業構造の変化と外国人労働者(移民・ディアスポラ研究7)』明石書店に安藤光義と佐々木貴文が研究成果を論文として寄稿している。
4.残された課題
日本への国際労働力移動の経路はこれまで外国人技能実習生制度しかなかったが、近年、別ルートの検討が政府で行われており、それが現実化してきている。技能実習生の滞在期間が3年間から最長5年間まで延長されたことや、在留資格制度の見直し、国家戦略特区における単純労働力の受け入れである。こうした制度変更が現場にどのような影響を与えることになるかについての観察と評価が今後の課題として残された。
2018年8月