成果報告
2017年度
インド太平洋地域におけるインフラ開発と秩序形成に関する学際的研究-日印研究者グループによるチャーバハール港とグワーダル港の比較調査を通じて-
- お茶の水女子大学グローバル協力センター 特任講師
- 青木 健太
1.研究の目的
本共同研究プロジェクトの目的は、中国が「一帯一路」構想の実現に向けてグワーダル港(パキスタン)に租借権を得て開発を進める一方、2016年5月、インド、イラン、アフガニスタンがチャーバハール港(イラン)の開発を進めることに合意した状況を踏まえて、①インド、イラン、アフガニスタンの3ヶ国がチャーバハール港開発で協力する背景と狙い、②こうした各国のインフラ開発に向けた動きがインド太平洋の秩序形成に対して与える影響、③同分野における日印協力の可能性、について明らかにすることである。
2.研究の方法
イランとパキスタンで現地調査を実施し、関係国政府・ビジネス関係者等への聴き取り調査という実証的手法によってデータを取得し、それを分析する。
3.研究の進捗状況
2018年2月にイラン・チャーバハール港現地調査を実施し、開発を推進する自由貿易産業庁(Free Trade Zone: FTZ)、港湾海事局(Port and Maritime Organization: PMO)、石油化学コンプレックス、製鉄企業、チャーバハール国際大学、シャヒード・ベヘシュティー港、周辺施設等を訪問し、関係者との意見交換、並びに、現場見学をするなど、本プロジェクトの要となる調査部分について大きな進捗が見られた。また、同年3月、インド・シンクタンクIDSAの東アジアセンターに於いて研究成果発表を行うとともに、有識者との意見交換を行い、インド側の見方について情報収集を行った。こうして、イランでの現地調査で明らかになったイラン及びアフガニスタンの見方に加えて、インド側からの観点を加味して、より多角的な視点からの分析が可能となった。
これらの研究成果については、日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所『アジ研ポリシー・ブリーフ』(2018年3月)、『パイオニア』紙、『SADFワーキング・ペーパー』(以上、2018年4月)、公益産業研究調査会『公研』(2018年5月)等にて順次出版した他、口頭発表を多数行った。
4.研究で得られた知見
現地調査の結果、イランは、チャーバハール港の総合開発を進め、イラン中央部から最も遠隔の地である同国東部スィースターン・バルーチスターン州を発展させ、同時に、同国自身が地域における「貿易のハブ」となることを志向していると考えられる。この点で、グワーダル港のインフラ開発を通じ、中国・パキスタンへの牽制を主眼に置くと考えられるインド・アフガニスタンとの間に、少なからぬ認識の隔たりが存在することが指摘された。これは、中国がチャーバハール港開発に関与する余地を残すなど、将来のインド太平洋地域における秩序形成に含意を有する。
5.今後の課題
2018年5月、米国はイラン核合意からの離脱を表明したが、こうした米国、および、二次制裁を恐れる諸外国とイランとの関係性への分析が今後の課題である。
予算の制約上、今年度の研究プロジェクトは主にチャーバハール港に焦点を当てた。このため、今後、グワーダル港に関する調査・研究を進め、比較調査を通じた成果発信を行う予定である。
2018年8月