成果報告
2017年度
東アジアの島嶼をめぐる紛争における国内の個人および団体の役割と影響―日本とフィリピンについての事例研究
- 政策研究大学院大学安全保障・国際問題プログラム 博士課程
- バンダンワル キャサリン チェリー ドクトレロ
領土紛争は東アジアの地域で大きな問題となっている。国々は異なる立場から議論を展開しているが、島に名前をつけ、歴史を記憶し、意味を与えてそれらをシンボルにしているのは人間である。どのように人々の生活は島々とつながっているのか。また、彼らの行動は政府の地位と政策にどのような影響を与えるのだろうか。
そこで、日本における尖閣諸島、フィリピンにおけるスプラトリー諸島に関わる、様々なタイプのアクターとその活動を調査した。その結果、島と関わりを持つ人々は、その動機の違いから3つのグループに分類することができることがわかった。
動機 : | 経済的 | 愛国心 | その他 |
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日本国内の個人および団体 |
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活動 (日本) |
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動機 : | 経済的 | 愛国心 | その他 |
フィリピン国内の個人および団体 |
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活動 (フィリピン) |
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第一のグループは経済的理由から島と関わる人々である。彼らの活動は、ビジネスや生計の一環として、島またはその近くの海から資源を得ることを目的としている。尖閣諸島には、1884年から島に居住し、開発を行った古賀辰四郎などの企業家や開拓者が存在した。フィリピンでは、1956年に、新しい漁場を探してスプラトリー島を発見したと主張するトマス・クローマもいた。古賀と同様に、トマス・クローマも人々をスプラトリー諸島に送り、事業を行った。
尖閣諸島に関わる企業家の中には、島を私有し賃貸する者もいた。古賀家の後に尖閣諸島を所有していた栗原家は、2002年から数百万円で日本政府に島を貸し、2012年に国有化されるまで続いた。
経済的理由によって動機付けられる他方のアクターは漁師である。 彼らは島の近くの海域で水産物を捕ることで生計を立てている。フィリピンでは、漁業は約160万人の主要産業であり、 南シナ海は大きな漁場となっている。
第二に、愛国心やナショナリズムを動機とするグループである。日本とフィリピンの両国において、活動家・政治家は、自らの政治的な影響力を高めるために島との関わりを持つ。彼らは政府に対し、「島が自国の領土である」という主張を政府が十分に行っていないと批判を行う。そのように政府の弱腰な姿勢を批判することにより、市民からの自団体への認知度を高め、権威を得ようとするのである。
これらの活動を行うのは右翼団体だけではない。フィリピンでは、左派政党、青年団体、その他の市民団体などの活動家が領土問題に関して積極的に主張を行っている。日本においても尖閣諸島を守る会、八重山防衛協会などの右翼団体ではない組織が活動を行っている。
両国とも、活動家や政治家は似た活動を追求している。 彼らは島に上陸を試みて、所有権を示す旗、記念碑、その他のサインを建てる。 例えば、日本の右翼組織である日本青年社は実際に尖閣諸島に灯台を建てた。フィリピンでは、活動家や政治家が多くのデモ行進を行い、青年団体が島への上陸を行っている。インターネット上の活動家も目立っている。一部のネットユーザーが強烈なキャンペーンを張り、中国の公式ウェブサイトのハッキングや改ざんを行い、そうした行動を「サイバー戦争」と称してインターネット上での抗議を行っている。
愛国心を動機とするもうひとつのグループは政治家である。 日本では、知事や、国会議員、市議会議員などが尖閣諸島問題に強く関わってきた。一方、フィリピンでは政治家が南シナ海の問題を取り上げることはあるが、日本の政治家のように積極的に関わることはない。その代わり、市民の力は非常に強く、南シナ海への主張を行うためのいくつかの組織が存在する。
第三のグループは、経済または愛国心のいずれも動機としないアクターであり、異なる理由で島と繋がっている。例えば、尖閣列島戦時遭難者遺族会は、太平洋戦争中に尖閣諸島で起こった遭難事故の生存者や遺族によって設立された。また、使命や目的に沿って島に関わる活動を行う財団や組織もある。フィリピンのシンクタンクは、国民の意識を高めるため、スプラトリー諸島に関わる資料を公表し、政府に対して政策提言を行っている。
要約すると、日本とフィリピンの領土紛争の間には多くの類似点がある。 生活が島に関連している人々の動機や活動は、同様のパターンを示している。多くの人々は、経済的および愛国的な理由によって動機付けられており、島や周辺の海域で非常に似た活動を行っている。 また、家族の理由など、島に関わる様々な理由を持つ他のグループも存在する。
紛争に対する有意義で持続的な解決策を見つけるためには、これらの関係者とその影響についての研究を続けることが重要である。本研究は、サントリー文化財団の助成により大きく発展した。特に、フィールドワークを実施できたことは重要であった。 沖縄へ行き、関係者や研究者に会って話を聞くことができた。今後は、フィリピンで同様の現地調査を行いたい。
2019年5月