成果報告
2016年度
現代日本の高校生を主体とした地域創造事業の展開と成果に関する研究~KOKO塾まなびの郷(高・大地域連携事業)の事例に即して~
- 和歌山大学地域連携・生涯学習センター 教授
- 村田 和子
本研究は、2002年から15年にわたって展開しているKOKÔ塾まなびの郷(高大地域連携事業)の事例に即して、現代日本の高校生を主体とした地域文化活動の実践構造と成果を明らかにすることを目的としている。15年にわたり継続してきた事例であることから、蓄積された活動の質を分析、評価、検証することで、高大地域連携による地域文化活動の新たな実践モデルを提示できると考えた。高校生・地域活動の市民、大学生、高校教員(OB含む)研究者による実践的研究の相互教育的な意義を求めたものである。
本研究を通して、明らかになった点、得られた知見は概ね以下の通りとなる。
第一に、人口減少、超高齢化が進行する現代日本社会にあって、本事例は高校と大学、地域社会が互恵的な連携を図り、青年を育てる視座が提起され、地域社会の担い手の形成が実践的な研究課題として位置づき、取り組まれている点に特徴を有している。これは、教育政策上進められている「高大接続」や「スーパーグローバルハイスクール」とは別に類型化される。すなわち、荒れた学校を再生したい「学校づくり」への願いと地元商店街の活性化、地域の歴史や文化の次世代への継承という「地域づくり」への願いを大学が媒介項となり、高校生を主体としたテーマ別WG(まちづくり、環境、福祉、教育、情報)を編成し、実践的な共同学習が実行され、継続されてきた。次に、本研究では、活動の質の検討を求めるため、当事者の高校生への追跡を試み、6名の青年(21歳~28歳)に対し、KOKÔ塾の経験がその後のキャリアに与えた影響等についてのインタビューを実施した。共通して語られたのは、学校でもない、家庭でもない、公共空間がKOKÔ塾であること、空間の内実は「自己決定し、実行することが許される場」「金にもならないことに懸命に取り組む地域の大人の存在を発見」「高校授業とは同一人物とは思えない教師の人間的な姿」といった自身の言葉に象徴されるように、KOKÔ塾での経験や出会いが、人生を励ます「力」となって、自らの進路決定や職業生活においての良き導き手という質に転嫁させているという事実を把握することができた。追跡調査は、KOKÔ塾に携わった元教諭を対象として実施した。座談会という形式による集団インタビューにより、KOKÔ塾の普遍化とシステム化という課題にアプローチした。同時に、本事例と同類型に位置づくと仮定した長野県OIDE長姫高校等への視察調査を実施し、飯田市公民館行政と松本大学との連携の実際も検討することができた。課題は、卒業生の追跡調査についてである。実施の困難さもあるが、数的不十分さも否めないため、今後とも継続していく予定である。
第二に、本事例では、OBによる自由大学「粉河大学」(KOKÔ塾応援団)の発足、KOKÔ塾の取り組みをモデルとした社会教育サークル「わかまなび」(和歌山大学ほか県内2大学生の地域活性化プロジェクトといった学生自主活動)が、地域社会の新たな文化の担い手として登場している。青年たちのまちづくりへの願いを実現する空間として山﨑邸(古民家のリノベーション)という地域拠点が位置づき、機能している。「高校生カフェ」という新たな事業の創出を具体化していることをはじめ、青年たちを主体として共生社会の実現に向けた新たなプロジェクトが創造される実空間として地域社会に定着しつつある。地域文化活動の担い手が育つ環境因子であると考えられる。
第三に、15年の到達を評価するために、大学関係者(本研究の共同研究者)を中心に公開シンポジウムを実施し、高校生をはじめ、県内外の学校関係者・地域活動関係者の参加を得ることができた。以上の研究について、成果報告書『高校が地域コミュニティの核に』としてとりまとめ、発行した。シンポジウムでは、高校生の作詞・作曲による「粉河魂」が生演奏され(CD化を予定)、来場者の感動を呼んだことを付記しておきたい。
2017年8月