サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 地域文化活動(闘牛)に対する外部影響と、その対応に関する協働的研究-新潟県の国指定重要無形民俗文化財「牛の角突き習俗」をめぐって-

研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2016年度

地域文化活動(闘牛)に対する外部影響と、その対応に関する協働的研究-新潟県の国指定重要無形民俗文化財「牛の角突き習俗」をめぐって-

東京大学 東洋文化研究所 教授
菅 豊

(1)研究の成果または進捗状況

本研究は、地域文化活動の実践者と研究者とが、伝統文化を取り巻く複雑な外部状況と、それを動かしている社会的仕組みを協働的に学習・研究すること、そしてそれによって外部状況を十全に理解し、それに的確に対応する「力量」を高めることを目的としている。本研究の最大の特徴は、その学習・研究を行うにあたり、問題発見から企画、運営の諸段階で実践者と研究者とが協働作業を行い、さらに、そのプロセスを研究者が観察、モニタリングし、研究することによって「地域文化活動の実践者と研究者による協働的研究」の可能性と問題点を探究する点にある。本研究の対象である新潟県小千谷市の国指定重要無形民俗文化財「牛の角突き習俗」は、現在、動物愛護思想や無形文化遺産保護、観光、地域おこしなど、現代的な外部論理や価値、あるいは外からもたらされる制度や資源の影響を強く受けている。そのため実践者たちは、文化継承の過程で外部状況を理解することが求められている。本研究では、地域論理を見落としがちな外からの介入への抵抗力や、地域文化活動の発展に不可欠な外部の制度や資源を巧く活用する(使い回す)適応力を、実践者が主体的に獲得し続ける「きっかけ」を生み出すために、地域文化活動の実践者と研究者が、伝統文化継承の過程で立ち現れる現代的課題を双方向的、かつ協働的に学習・研究(collaborative learning)する勉強会を、全5回開催した。
第1回勉強会では研究概要、目的、方法等について、地域文化活動の実践者(小千谷闘牛振興協議会メンバー)に解説。 続いて、実践者たちの間でコンフリクトを生みつつある、伝統の遵守と変化の問題について議論するため、「角突き伝統確認会」を開催し、実践者リーダーにより従来の伝統のもつ規範や角突きの伝統的所作、曳き回し、進行に関して問題提起がなされた。第2回勉強会では、2013年の動物愛護管理法改正時に実務を担った専門家を招へいし、動物愛護をめぐる社会的状況(動物同士を闘わせる行為への批判)、さらにその状況への対応について理解を深めた。第3回勉強会では、「伝統」というものの可塑性や変性を学び、伝統に関して「変えてよいもの、変えてはならないものとは何か?」という問題を、自ら考えるために、1935年(昭和10)と1981年(昭和56)に撮影された記録映像を元に議論した。第4回勉強会では、長年にわたってレジデンス型研究者として小千谷で実践を行ってきた研究者の講演によって、将来の不可避の問題(人口減少、少子高齢化、限界集落化)を自覚し、そのような状況下で伝統を維持継承し、地域生活の維持継承に資する方策について学習した。第5回勉強会では、角突き牛の生産地である岩手県の関係者を招へいし畜産状況について講演してもらい、地域の伝統文化が実は地域を越えたネットワークによって支えられていることを学習した。

(2)研究で得られた知見、今後の課題

本研究により、1、動物愛護思想への積極的対応、2、伝統維持と変化のバランス、3、産地も含んだ地域間連関の重要性、4、伝統維持のための諸制度の活用、5、協働的学習・研究の可能性と問題点に関する知見が得られた。その知見は、本研究の進行中になされた動物愛護の観点からのマスコミ取材への対応、さらに中山間地域等直接支払制度利用などの具体的な局面で効果的に活用された。ただし本研究では、協働型学習・研究という不慣れな活動を初めて展開したために、研究者や実践者リーダーなど限られたアクターがリーダーシップを発揮しがちであった。今後は、その作業の諸段階で、いかに多くのメンバー(とくに若手メンバー)を包含していくかが、重要な課題となっている。

2017年8月

サントリー文化財団