成果報告
2016年度
科学技術と社会革新の再編成をめざす国際拠点
- フランス国立社会科学高等研究院 准教授
- Sébastien Lechevalier
【研究の目的】
本研究プロジェクトの目的は、欧州と東アジアという現代世界の中でも最も発達した二つの地域の現状をイノベーションという側面から比較分析し、かつ持続可能な未来を可能にするための科学技術をめぐる制度的課題の共有へ向けた、新たな国際的研究基盤を構築することである。本研究グループは、EHESSと国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が2015年6月に締結した協力協定に基づいて企画された。
初年度においては、研究ネットワークの深化を目的に、社会イノベーション比較研究に関するキーワードを確定する作業を行った。従来のリニア型イノベーションモデルは、半世紀にわたり隆盛を極め、多くの成果が生んだが、やはり弱点がある。第一は社会がイノベーション生産に果たす役割の軽視であり、科学技術社会論研究者の批判を受けて改善されたものの、それを含めた理論的枠組みはまだ明示されていない。第二は動態的な視点の欠如であり、本研究で採用するグローバル化時代における多様な制度変化論の枠組みを適用することが重要と考える。本研究会では、「ユーザー起点イノベーション」「分担協調型イノベーション」「社会イノベーション」「草の根イノベーション」「ジュガードイノベーション」「リバースイノベーション」など多様な形態を比較分析することで、その発展の源泉を明らかにし、「社会技術イノベーション」という概念の再検討を試みた。
【研究の進捗状況】
平成28年9月12日に「Innovation Beyond Technique」と題したオープンフォーラムを開催し、EUおよび日本政府への政策アドバイザーを務めるアクターを交え、プロジェクトメンバーとの意見交換を行った。また9月13〜14日には研究チームの主要メンバーと外部協力者を含める24名が一般非公開の研究会を行い、徹底討論を通した共同研究の基盤形成を行い、また国際共著論文集の刊行に向けた国際ペア形成を行った。
三日間のインテンシブな意見交換および以降の研究会を通して明らかとなったのは、イノベーション研究者の個別の関心とグローバル/ローカルな科学技術問題のバランスは決して良くないこと、また、各地域、各専門分野での問題関心の差異も決して小さなものではないことである。例えば、欧州研究者は日本の事例を「明日の欧州」として考慮されるべき問題群と位置づけ包括的なアプローチを採用する一方、日本研究者は国家の役割と影響あるいは地域社会が抱えている問題あるいは市場が抱えている問題に焦点化する傾向がある。上記の課題を克服するために、イノベーションと社会の変容との関係づけにより、モラル・エコノミーを科学技術社会研究の中に正当に位置づけることをめざした。特に、公的異議申立てが社会的問題解決に寄与してきた事例に注目し、社会的紐帯の種類とその規範的な規制についての理論を応用することで、イノベーションのパラダイムを見直す契機となる。
日仏クラブ年次総会にて研究プロジェクトの中間発表と今後の方向性に関する議論を行い、研究レポート「Comparing the Japanese and the French Systems of Innovation : Differences, similarities, and possible complementarities」としてまとめた。また、最終成果として「Innovation beyond technology: Science for society and interdisciplinary approaches」として2018年にSpringer出版社より刊行することで、日本とフランスの叡知を総合するという目的を達成する。
2017年9月