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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

国際連合(国連)による金融制裁の法的問題
-金融制裁の正統性・実効性の追及

関西学院大学国際学部 教授
吉村 祥子

研究の成果・進捗状況

本研究は、国際連合(国連)が発動する経済制裁のうち、金融上の手段(資産凍結や送金停止等)に焦点を当て、法的問題を検討・分析し、より正統性・実効性の高い金融制裁とは何かを考察することが目的である。2016年度の研究期間中、研究代表・共同研究者に加え、本研究に高い関心を有する研究者・実務家の方々の出席を得て研究会を2回開催し、内容の濃い研究報告と様々な専門や立場を反映した活発な議論が行われた。

本研究の成果の一部として、2016年11月にアジア国際法学会日本協会との共催でパネル報告を行った他、2017年9月開催の国際法学会にて、より学術的な視点から本研究の成果の一部につきパネル報告を行う予定である。また、個々の共同研究参加者が、自らの専門とリンクさせるなどの方法で本共同研究を活かした内容の研究成果を指向するとともに、研究代表者・共同研究者、また研究会に参加をいただいた研究者・実務者の方々の執筆により、より包括的な研究成果として、2018年度中を目処に書籍『国連の金融制裁−法と実務』(仮題)として刊行することが決定している。

研究で得られた知見

国連の経済制裁は、主として国際法の観点からは、制裁の発動や履行に伴う合法性や違法性が検討されることが多かった。また、国際関係論の観点からは、国連という国際社会の中の一つのアクターが行う活動につき、発動に伴う国際政治上の力学や経済制裁の実効性という観点から検討されることが多かった。本共同研究では、経済制裁の中でも重要な措置であり、物資の輸出入制限などの措置と同様にさらなる研究が必要と考えられている金融制裁に焦点を当て、国際法や国際関係論の視点に加え、国際取引法上の観点や、外為法など関連国内法からの観点、また金融機関が実質的に担っている役割や民間企業の実務上の法的問題という観点からも検討を行うことができた。

金融制裁に関与するアクターは多岐に渡っている一方、各々のアクターが直面している課題は異なり、理論的にはそれらの問題が別個の専門的な学問領域で論じられてきたのが実態であろう。今回の共同研究では、各々の分野で個別に論じられてきた法的問題を異なる立場からの見解も加え議論することにより、より正統性・実効性のある金融制裁とは何かを、制裁の発動(国連)、履行(国家)、適用(私人など)の立場から考察し、全体に関わる課題の解決に向けてアイデアを出すことができた。

今後の課題

国連の目的は国際の平和及び安全の維持であるが、安全保障理事会による経済制裁の決定が常に平和に対する脅威等を除去する効果を常に有していたかは疑問である。その理由は、制裁発動の際の政治性に加え、制裁の措置に関連する様々な状況(金融制裁であれば技術革新によって国家以外の主体が発行する仮想通貨などの発展と現状)をより鑑みる必要があった、一律に制裁を発動して履行を要請するだけではなく、制度や経済状況が異なる国家の事情をより考慮し、どのような手を打てば平和に対する脅威等をより効果的に除去することができ、国連の目的である平和と安全の維持を達成することができるかを真摯に考える必要があった、などがあると考えられる。これからは、従来の国連経済制裁に関する研究に加え、平和と安全の維持に関する国連の目的を達成するためには、国連がいかに他の主体と協力関係を構築するべきか、また制裁という手段と他の手段(紛争の平和的解決分野の手段や、金融活動作業部会:FATFのような国際枠組など)との連携をどうするべきかといった点も課題となるであろう。

本研究に対し機会と支援を下さったサントリー文化財団に改めて御礼申し上げるとともに、よりよい世界の実現のため、今後ともさらなる問題解決に向けて研究に取り組んでいければ幸甚である。

2017年8月


サントリー文化財団