成果報告
2016年度
現代政治とパブリックインテレクチュアルの動態
- 同志社大学法学部 教授
- 村田 晃嗣
2016年度の「現代政治とパブリックインテレクチュアルの動態」研究会は、サントリー文化財団の人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成を受けて実施された。
2016年8月22日に第一回研究会として五百旗部薫東京大学法学部教授によって「政治を鼓舞する言葉たち;明治日本の経験」と題した報告が行われた。明治という政治と文学が近かった時代に、どのように政治的レトリックが発展したかをめぐる考察は、「政治と言葉」に深くかかわるパブリックインテレクチュアルについての新たな洞察を導くものであった。
第二回研究会は2016年10月6日に、報告者を苅部直東京大学法学部教授とし、「天皇退位問題をめぐって」と題して行なわれた。天皇問題をめぐる内閣・野党・マスメディアの関係について専門の日本政治思想史を踏まえた考察が行われ、参加者からも多くの疑問・意見が提出された。
第三回研究会は2016年12月7日報告者にフォルカー・シュタンツエル前駐日ドイツ大使をむかえ、「中国の魅力、中国の恐怖―ヨーロッパおよびドイツが見る東アジア」と題して行われた。欧州・中国・日本の三者の外交の要職を体験された大使による、影響力を増しつつある中国をドイツがどう見ておりどういう関係を築いていくのかというお話は、同じ課題を抱える日本のマスメディア・知識人に大きな示唆を与えるものであった。
第四回研究会は2017年1月6日久保文明東京大学法学部教授による「トランプ政権成立の衝撃とその国内的・国際的含意」という報告で行われた。多くの人に驚きをもって受け止められたトランプ政権の成立の背景を知りその上でこの新しい事態に対処すべく議論が行われた。パブリックインテレクチュアルのあり方が正面から課題となった回であった。
第五回研究会は2017年2月22日五百旗部真熊本県立大学理事長をむかえ「ゆれる世界と日本」と題して行われた。米・欧・中と冷戦後の世界秩序が岐路を迎える中、パブリックインテレクチュアルとして冷静で的確な判断をするための指針のあり方について議論された。
第六回研究会は2017年4月3日細谷雄一慶應義塾大学教授をむかえ「トランプ政権成立後の世界秩序」と題して行われた。トランプ新大統領のもと、米・英・独・露・中等が新たに織りなす世界秩序とマスメディア・知識人との関係について議論が行われた。
第7回研究会は2017年5月22日「メディアは政治にどう向かいあっているのか?」と題し、柿崎明二共同通信社論説委員兼編集委員と平井文夫フジテレビ報道局上席解説委員に話を聞いた。実際に日々政治報道開設を担当する二人に率直に話しを聞き、まさしくマスメディアのあり方が活発に議論された。
7月に予定されていた研究会が報告者の体調異変によって中止となったのは残念だったが、1年を通じてみると、世界と日本のパブリックインテレクチュアルの抱える様々な課題が浮かび上がり、それについて真摯で率直な議論を繰り広げ大きな成果が出た研究会であった。
2017年8月