成果報告
2016年度
グローバル文化としての東アジア武術
――日・米・英における伝授、表象、変容
- 早稲田大学国際学術院 教授
- Molasky, Michael
2016年度、2年目に入った本共同研究では、文化行為としての東アジアの武術・武道の国際移転と受容に関する調査と考究を、引き続きメンバーの専門と分担領域に即して行った。年間を通して5回の研究会を開いたが、前半では特に海外文献調査に基づいた研究動向の把捉に努め、後半にかけては成果公開に力を入れた。
各メンバーが主として取り組み、研究会で討議した主題は以下である。①米国における東アジア武術に関するレトリックが示唆するその受容状況(モラスキー)、②GHQ占領下における武道の動向とその制度化(坂上)、③武術の文化芸術表象における暴力の位置づけ(新田)、④20世紀初頭の英米における柔道のブームとその表象(薮)、⑤思想哲学と歴史の二相にわたる日本の武道研究史の検証(中嶋)、⑥幕末から明治期において実践されていた剣舞の調査(田邊)。各研究会では、これらのテーマの一端が各論の形で報告され、それを討議した。加えてポール・ボウマンは、引き続き国際武術研究ネットワークを主導した。
成果公開に関しては、本プロジェクトが当初より掲げてきた国際性と学際性を実践する形で、英国南西部に位置する都市バースにて行われた。2017年5月3日、モラスキーとボウマンにより企画・主催された国際研究集会New Research on Japanese Martial Arts [日本武術の新研究]には、英国、ドイツ、日本、韓国、ロシア等から約30名の研究者が参加し、活発かつ有意義な討論ならびに研究交流が行われた。本チームからは4名のメンバーが英語で報告を行ったが、各題目は以下の通りである。“Critique of Violence in Asian Martial Arts Films: How Mythopoeia Has Displaced It”(新田)、“The Creation of Kendo’s Self-Image: 1868-1945”(坂上)、“An Ethnographic Study of Shinkage-ryu”(中嶋)、“The Dissemination of Judo in Early Twentieth-Century America: The Mission and Struggles of a Pioneer Judoka”(薮)。このほか、公募で銓衡された英国、ドイツ、韓国、日本の研究者5名による研究報告が行われた。
バースではまた、ボウマンを含めた研究会を行い、さらなる成果公開、つまり査読付き国際専門誌Martial Arts Studies Journalの特集号「日本の武術研究」への論文投稿についての方針ならびに各自のテーマに関する入念な打ち合わせが行われた。出版スケジュールとしては、2017年9月30日投稿締切、同10〜12月査読、2018年1〜5月校正・編集、同6月刊行が予定されている。これはつまり、本研究の成果公開プロセスは、本助成が終了したのちなお1年あまり続くということを意味している。またこれに留まらず、各メンバーはさらに個別の成果出版の作業を続け、かつそれを土台としたチームとしての研究活動を継続する途を模索している。ここに我々の萌芽的研究を諒とし、グループ研究の土台を築くすべを与えて下さったサントリー文化財団に、謹んで感謝申し上げたい。 以上
2017年7月