成果報告
2016年度
地域の住民・患者が専門家との協働により地域における医療・ケアの課題を解消するモデル的手法の構築に関する研究
- 特定非営利活動法人がん政策サミット 理事長
- 埴岡 健一
本研究では、「当事者と多くの関係者による議論が課題解決を見出す」という仮説のもと、多様な関係者によって地域の特性に合った政策や自主活動が企画され、実施されるためのモデル作成を試みた。
研究課題の実例として、「死亡率が高いがんを減らすためには、どのような対策が必要か」をテーマに、地域の現状を示すデータセットをもとに患者・家族の立場の人、行政担当者、医療提供者、メディア記者、学術研究者の5者が同じテーブルで議論する機会を設定した。研究者が事前に研究の目的と成果物の構成・内容を決めた上、5者による議論の観察を行った。そのうえで、研究者の専門的知見を織り込み、地域・テーマを問わず活用できる、多様な関係者が立場を超えて議論する議論の進め方のポイントを、一般住民でも理解できるレべルの冊子『「六位一体」で政策議論を進めるためのガイド』としてまとめ、広く社会に共有した。
立場が異なり、ときに上下関係が出がちな立場の人が対等に議論するためには、さまざまな課題があることが確認された。特に今回行った議論では、①一般に立場が強いと思われる当人が威圧的に多数の発言を行った場合②テーマに対する知識量の違い/事前学習度の違いが、議論が対等に進まなくなることの原因となりえる問題点観察された。その解決方法として、①知識量が異なる人への事前の情報提供②議論中に都度論点整理をしていく支援③参加者が対等な立場となる場づくりをするファシリテーターの役割が大変重要であることが示唆された。
それらの学びから、ガイドの項目を、1. 必要なメンバーの確認、2.ファシリテーターを立てる、3. 参加者全員の事前学習、4. 対等な場づくり、5. 立場の役割を生かした発言、6. 議論の枠組みの可視化、7. 全員の納得感――とした。この冊子が、社会的課題解決のためのさまざまな議論の場で活用されることを期待したい。
研究の今回のアウトプットは、多様な立場の人での「議論の進め方」をモデル化する段階であったが、今後は、議論の内容(ここではデータを活用した議論から、課題・原因・対策を見出すこと)のプロセスのモデル化についても研究を進めていきたい。
2017年8月