成果報告
2016年度
オーラル・ヒストリーによる戦後日本映画史の再構築
- 早稲田大学政治経済学術院 客員教授
- 谷川 建司
本研究は、映画製作の現場の様々なスタッフ、配給・宣伝担当、劇場スタッフなど、様々な形・多様な経路で映画文化の創出に携わってきた人たちの経験を参照可能な形にアーカイヴス化する作業を通じて、映画文化発展の特質を社会的・経済的側面に着目して解明することが目的で、2015年度から二年間の活動(ゲストを招いての研究会の開催・メンバー各自によるインタビューの実施)を通じて、一定程度のオーラル・ヒストリー・アーカイヴスを構築する目的でスタートした。
一年目の2015年度はゲストを招いての研究会を3回、メンバー各自によるインタビューのテープ起こしの補助を行っての共有アーカイヴス化を10名、合計13名の貴重な証言をオーラル・ヒストリー・アーカイヴスとして整理することが出来た。
2016年度についても同様の二本立ての形で研究会を進め、ゲストを招いての研究会としては12/17(土)(於、早稲田大学)、2/24(土)(於、東宝株式会社砧スタジオ会議室)、5/20(土)(於、早稲田大学)の計三回開催し、それぞれインタビュイーとして本橋成一氏(ドキュメンタリー映画作家)、中野稔氏(元円谷プロ・光学合成特撮専門家)、山本洋氏(元大映労組委員長・映画プロデューサー)から貴重な話を伺うことが出来た。そして3名のインタビューはそれぞれテープ起こしを行ない、研究会メンバー全員が参照可能な形に整えた。
次にメンバー各自によるインタビューのテープ起こしの補助については、一年間で計10名程度の実施予定だったものの、予算の制約の為4名のインタビューのテープ起こし補助活動(共有アーカイヴス化)に留まった。具体的には、千蔵豊氏(元東映)、羽田澄子氏(ドキュメンタリー映像作家)、吉村次郎氏(元東映動画)、そして稲井峯弥氏(元石巻テアトル東宝経営者)の4名である。人数が4名にとどまったとはいえ、特に石巻へはミニ研究会のような形でメンバーのうち3名で訪れ、東日本大震災前後の状況を含めて、戦後の石巻市における映画興行の歴史を伺い、貴重な証言を得ることができた。それらのインタビューはすべて既にテープ起こしを終え、2016年度の合計としては7名の証言をオーラル・ヒストリー・アーカイヴスとして整理することが出来た。
本研究会は二年間の合計で20名のオーラル・ヒストリー・アーカイヴスを構築したが、加えて2016年度より三年間の予定で京都大学人文科学研究所の研究会として同様の枠組みの研究会を組織し、既に2016年度に5名、2017年度に現在までのところ3名(年度内にあと2名追加予定)へのインタビュー及びテープ起こしを実施している。京大人文研では2018年度いっぱいまで研究会が続くため、三年間の合計で15~20名の証言をオーラル・ヒストリー・アーカイヴスとして整理する予定である。最終的には、本研究会の二年間の成果と京大人文研での三年間の成果とをリンクさせ、ウェブ上で利用可能な計35~40名ほどの映画関係者のオーラル・ヒストリー・アーカイヴスを構築することと、さらにその抜粋としての証言集の出版を目指したいと考えている。
2017年8月