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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

住吉大社境内の石燈籠からみた大阪文化の伝播

関西大学文学部 教授
黒田 一充

(1)研究の目的と進捗状況

大阪市住吉区の住吉大社は、古代から海の神、和歌・文学の神として信仰を集めてきた。とくに近世になって河川交通や海上交通が発達し、物資の移動が盛んにおこなわれるようになると、輸送途中の船の安全を祈るため、住吉信仰が広がった。それを裏付けるものが同社の境内に残る石燈籠である。17世紀半ば以降の造立だが、その銘文から、全国の廻船問屋や物資を船に載せたさまざまな業種仲間が寄進したことがわかる。その銘文を分析することによって、大阪文化の伝播と、伝播した文化がそれぞれの地域でどのように育まれ、継承されてきたのかを、歴史学・民俗学・経済史・建築学・情報学などの学際的な視点から検証を試みるものである。

まず、境内と摂社に残っている石燈籠の銘文の解読と分析をおこなった。年代が読み取れるものからは、寛永21年(1644)が一番古く、享保年間(1716~36)が一番多いことがわかった。さらに地名を旧国名で分類すると、大坂・堺・京都が約6割を占めるが、あとは松前(北海道)から薩摩まで分布し、内陸部の信濃・飛騨や山陰地方などを除いて、ほぼ全国的に分布していることがわかった。ただし、関連資料の調査で、現在の石燈籠の配置は、昭和5年(1930)年ごろに境内の奥に散在していたものを前面に動かして整備した結果であり、造立当時のままの景観ではないことも明らかになった。これらの知見にもとづいて、境内の石燈籠を紹介するイラストマップを作成し、一般の方々に向けた現地でのガイドツアーを催した。また、ウェブ上でも見ることができるコンテンツの制作をおこなった。

さらに、石燈籠の銘文に記された場所の現地調査をおこなった。山形県には石燈籠造立の際に寄進を募った文書が残っており、富山県高岡市や徳島市では、住吉の石燈籠と同じグループが、地元の有力神社にも石燈籠を寄進していたことがわかった。また、大坂で造った狛犬や家の欄間などが運ばれて現地に残っており、江戸時代の物資の移動や大坂との地域交流の様子を探る上で、この石燈籠の碑文が資料となることが明確になった。

(2)今後の課題と展望

これまでの住吉大社の石燈籠研究は、碑文の業種名と造立年代だけを分析対象にするものだったが、碑文の人名から人物を特定してみると、造立年代とは時代が合わない事例が見つかっている。石面には最初の造立年が刻まれているのだが、再建もしくは修繕時に寄進した人名が刻まれているのである。これらから、年代別の分析も容易でないことがわかった。そのため、研究成果をまとめて出版する計画を持っているが、その実現にはもう少し時間が必要かと考えている。

2017年8月


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