成果報告
2016年度
国際・国内環境制約下の政策決定過程と内閣の党派性の関係
- 明治大学政治経済学部 准教授
- 木寺 元
本研究から得られた重要な知見は2009年の政権交代により多くの分野で政策が代わり、2012年の安倍政権誕生後も政策の方向性は続いているということである。
政権交代の政策への影響の及び方には四つの形があった。注目すべきは事例の中では、2009年の政権交代により政策が大きく変わり、その後2012年の政権交代を挟んでもなお、継続されたものが最も多いということである。
一つ目は政権交代のたびに政策内容が大きく変わるもの。二つ目は二つの政権交代にも関わらず、内容に差異が生じなかった政策。三つ目は2009年の政権交代により政策の方向性がかなり変化し、2012年の政権交代後、同じ方向で政策が継続、発展する事例である。四つ目は、2009年の政権交代によって変化はなかったものの、2012年の政権交代によって政策が変更された事例である。農業政策、子育て支援が最初の事例にあたり、対外政策は二つ目にあたる。第三の類型がもっとも多く、電力システム改革、コーポレート・ガバナンス改革、消費税増税、防衛大綱の改訂がこれに含まる。四つ目は集団的自衛権に関する憲法解釈である。
また、政策決定過程において首相や首相周辺の政治家・官僚の役割が増大する一方、政府外の与党議員や利益集団の役割は低下していたことも明らかにした。また官僚について特に注目されることは従来内閣に対して自律的地位を有していた法制局の地位が次第に弱まっていったということも示された。
民主党政権についてはこれが「失敗」であったというのが一般的見方であろう。一部の研究者は、民主党政権が失敗であったことを前提として研究を進めているほどである。また、一部の民主党にいた政治家自身がこうした認識を持っている。一方、安倍政権は民主党政権との違いを強調しようとしてきた。例えば、2013年7月の参議院議院選挙の公約で自民党は「大胆で次元の違う経済政策によって日本を覆っていた暗く重い空気は一変した」とアピールしている。
民主党政権に厳しい評価がなされ、安倍政権と民主党政権の政策は違うと解釈される場合があるにもかかわらず、内容を精査すると多くの分野で民主党政権と安倍政権の間に政策の継続性がみられるというのは興味深い知見である。
なお、本研究の成果は、勁草書房より『二つの政権交代』として2017年2月に出版され、日本経済新聞2017年4月8日、公明新聞2017年5月15日、週刊東洋経済2017年6月10日など各メディアにて取り上げられた。
2017年8月