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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

「開発協力大綱」の策定とアフリカ開発会議(TICAD)プロセスの新機軸に関する総合的研究

関西大学経済学部 教授
北川 勝彦

2015(平成27)年2月に「開発協力大綱」が閣議決定された。新大綱では、1993(平成5)年以来実施されてきた「アフリカ開発会議」(TICAD)プロセスを通じて官民一体のアフリカ支援を行っていくことが再確認された。本共同研究の目的は、TICADプロセスの歴史と現状を検討しつつ、新大綱の下で展開されるアフリカに対する開発協力の新機軸を考察することにある。

2016年8月27日~28日にケニアで開催されたTICAD VIの「ナイロビ宣言」では、「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」、「質の高い生活のための強靭な保健システムの促進」、「繁栄の共有のための社会安定化の促進」が優先課題となった。本共同研究では、内外の共同研究者および研究協力者と意見交換をかさねながら、2019年に横浜での開催が決定されたTICAD VIIに至る途上にある「ナイロビ実施計画」実施過程を分析し、以下の問題について考察してきた。

まず、溝辺康雄は、第二次世界大戦以前と戦中においても日本の対アフリカビジネスは展開されていたが、これと現在の動きとの間の連続と変化について考える必要を指摘した。また、クウェク・アンピアは、アジア・アフリカ関係に日本のTICADプロセスを位置づけるには脱植民地化過程における経済開発と1955年のバンドン会議の成果との関連性の分析が重視されるべきであると論じた。これに加えて、峯陽一は、「開発」と「発展」という用語を慎重に検討し、日本で展開された研究史と史実を踏まえて「開発」に新たな意義づけを行おうとした。

以上の歴史的背景の分析を共有しつつ、ペドロ・アマカス・ラポソは、これまであまり取り上げられることのなかったアンゴラとモザンビークを中心とするポルトガル語圏アフリカ(PALOP)に対する日本のTICAD外交を分析した。また、スカーレット・コーネリッセンは、近年の日本企業のアフリカ進出に関連して、「企業の社会的責任」の問題をTICADプロセスに組み入れるべきであると主張した。

2017年5月に本共同研究の共同研究者を中心とし、国内の研究協力者を招聘して開催した国際シンポジウムでは、近年の中国の目覚ましいアフリカ進出を象徴する「中国―アフリカフォーラム」(FOCUC)と「一帯一路」の世界政策に十分注目する必要があり、また、日本とアフリカ、広くはアジアとアフリカの関係を検討する場合には市民社会レベルのつながりにも注目し、これをTICADプロセスのどのように組み入れていくべきかを検討する必要性が指摘された。

今後、政府と官界、民間業界、市民社会だけでなく、TICADプロセスに研究と教育を含めた「アカデミック・フォーラム」の設置に向けた具体的な取り組みが必要であるとの認識を共同研究者の間で共有することができた。

2017年8月


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