成果報告
2016年度
縮小する地方:コミュニティーの自助解決事例集
- 東京大学大学院医学系研究科 准教授
- 梅崎 昌裕
日本社会が迎える少子高齢化・人口減少は、経済の衰退、行政サービスの低下など、社会にとって望ましくない結末をもたらすと予測されている。産業革命以降に成立したコンテクストに照らしながら、これからの社会の姿を評価するならば、確かにその予測はあたっている。しかしながら、歴史を鑑みれば、人類は、状況の変化に対して驚くべき創造性を発揮し、それを乗り切るための対応策を生み出してきたのも事実である。本研究課題の目的は、少子高齢化・人口減少に直面する日本の地域集団において、住民がどのような対応策を創造し、そこにはどのような試行錯誤があるかを、ケーススタディーとして集積することである。
この目的を達成するため、地域集団での調査経験を有する研究者が中心となり、それぞれが観察・記録してきた事例を共有するとともに、同様のケースを有する研究者とのネットワークを構築するための研究会を実施した。研究会には社会医学、社会人類学、農村経済学、行政学などを多様な学問的な背景をもつ研究者が参加し、以下のようなコミュニティーの自助解決事例についてそれぞれの立場から検討した:住民による地域サービスの提供;在来野菜のブランド化;農産物の輸出戦略:Iターン/Uターンによる過疎地への移住促進;コミュニティービジネスの促進;地域に根差した移動販売の展開;コミュニティーのメンバーによる見守り。
コミュニティーの自助解決努力の背景には、国全体の人口が減少し高齢化すること、および地方自治体の住民サービスが低下することについての認識が住民に共有されてきたことがかかわっている。そのなかで、住民組織が、これまで行政が担ってきた地域サービスを肩代わりしたり、コミュニティービジネスによって地域の経済活性化と雇用の確保を目指すという流れが全国的に活発化している。一方で、地方の主要な生産品である農産物に経済的な付加価値をつけるこころみは、地方の産業構造を維持したうえでの経済活性化方策としての期待が大きい。
しかしながら、このような自助努力の成否には、いくつかの条件がかかわる可能性が議論された。ひとつは、経済的・社会的「資本」の有無である。経済的資本のなかには、行政からの補助金のほか、村落の共有地にある木材、用水組合などの積立金などが、社会的資本のなかには、コミュニティーの互助機能や青年会、婦人会などが含まれる。ふたつめは、地域にリーダーシップをとる人材がいるかどうかである。これは、村落レベルに限らず、地方の大学や企業、自治体など、さまざまなレベルで共通する要因だと考えられる。みっつめは、同意形成にかかわる人々の考え方である。自助解決努力は個人主義というよりは集団主義の側面が強く、全体としての同意形成にかかわる仕組みや意識の有無が大きな影響をもつと考えられる。
プロジェクトの成果は、「縮小する地方:コミュニティーの自助解決事例集」として刊行することを目指している。
2017年8月