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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

LGBTのHIV陽性者における心と性のヘルスプロモーションに関する当事者参加型総合調査研究

放送大学大学院文化科学研究科 教授
井上 洋士

【背景・目的】

LGBTのHIV陽性者は自身がHIV感染源という認識を余儀なく持ちつつ日常生活や性生活を送るうえ、[HIV=不治の恐ろしい病]という偏見が依然として市井にあり、外的・内的スティグマに苦しみ閉塞感を感じ生きづらい状況に陥りがちである。またLGBT関連スティグマも依然大きく、双方が心や性の健康を低下させている。しかしその実態は把握されておらず、彼らが心や性の健康を維持・増進できる支援的地域社会づくりの方略は明確ではない。

そこで本研究は当事者参加型研究方式による全国調査を実施しLGBTのHIV陽性者でのスティグマ経験ならびに心や性の健康の実態を把握することを当初の目的として設定した。

【2016年度の実施状況】

2016年4月23日に実施した当事者会議での検討結果から、我々が2013年~2014年に実施したHIV陽性者1,095名回答の日本初の大規模HIV陽性者対象第1回ウェブ調査結果を踏まえて、行政への要望書をまとめるロビー活動が最優先という結論に達した。要望書は、2016年7月12日に、特定営利活動法人HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス経由で厚生労働省結核感染症課に提出、9月7日には、同要望書について上記団体代表高久陽介氏と本研究代表者井上洋士とで日本記者クラブで記者会見を実施、改めて要望を訴えた。要望書の内容は、①HIV陽性者のメンタルヘルス改善および相談先の充実に関する要望、②院内他科、一般医療機関および介護福祉施設等との連携強化に関する要望、③子どもを持つことに関する要望、④依存症患者への回復支援に関する要望、の4本立てとした。

一方、2016年10月23日には研究者11名及び当事者2名参加の研究者会議を実施し(於東京)、調査項目の確定と質問内容の具体的検討を行った。2016年11月12日には、研究者3名で恋愛・性の健康に焦点をあてた研究者会議を開催した(於名古屋)。「LGBTのHIV陽性者の心と性のヘルスプロモーション」という観点からは、先行研究を参考に設けているLGBT関連スティグマの項目13項目およびトランスジェンダーの健康に関する調査項目を設けた。また、関連要因の検討をするために、健康状態、恋愛・性の健康、アディクション(依存症)、Sexual Compulsivity、幼少時の性的虐待経験、周囲の人々や社会との関係、心の健康、自殺関連経験、健康管理・日常生活といった他の項目からの変数を2次的に利用できるものとし、LGBT関連のスティグマの形成について構造的に分析するのみならず、LGBT関連のスティグマの他変数への影響も検討ようにした。

ウェブ調査は、2016年12月25日正午から開始された。2017年7月25日までに1,110名が調査回答した。8月~9月に、データクリーニングを実施し、9月7日までに終了、9月8日には研究者会議を開催し、研究者12名、当事者2名参加のもと、データ分析の担当割り当てと、9月30日の当事者会議に向けた準備作業に入る予定としている。9月30日には、当事者会議を開催し、当事者12名、研究者9名の参加のもと、データ分析の速報の報告と、それらをもとにしたディスカッションを展開する予定としている。

【得られた成果】

千人を超えるHIV陽性者からの回答を得、9割はLGBTであると考えられることから、彼らの心と性のヘルスプロモーションの方向性を探るために貴重なデータを得るに至った。今後はこれらの分析を開始し、2017年12月に分析結果を公表する予定である。

2017年8月


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