成果報告
2016年度
移行国家のエネルギー・ガバナンスの課題と展望
-エネルギー安全保障上の確執と持続可能なエネルギー政策のあり方-
- 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
- 稲垣 文昭
本研究は旧ソ連・共産圏を事例に,⑴国家や中進国が直面するエネルギーを巡る課題についてその構造を明らかにし,⑵国際支援のあり方も含めた持続可能なエネルギー・ガバナンスのあり方を探ることを目的として,ポーランドと中央アジアを対象として学際的国際共同研究を2015年度より行ってきた。なお,前年度は主に資源消費国の視点から研究を開始したが,後半より対象国にロシアを加えることで資源供給国,特に天然ガス・石油産出国の視座を強化した。
2016年度は上記の視点を深化させることに注力し,消費地が跨境的に形成されたが故に機能不全に陥った旧ソ連・東欧地域のエネルギー・インフラが抱える問題について国内情勢に焦点を当て明らかにする一方で,エネルギー再分配のガバナンスの安定化の可否について国際共同研究で提示することを企図した。具体的な活動としては,上記の目的・企図のために2回の研究会を開催,外部講師を招き米国及びアジア太平洋地域のエネルギー問題,日本のエネルギー政策の取り組みについて意見を伺った。また,シンポジウム「秋田から見る日本のエネルギー・ガバナンス〜持続可能性について考える〜」を開催し持続可能性という観点から日本のエネルギー・安全保障,さらにはエネルギー分配について東アジア地域の文脈で捉えた。
2017年4月1日には,パネル報告“The Policy on Environment and Energy in Post-Communist Countries: The Three Waves of Transitions of Ecology, Energy and Regime”を国際学会World International Studies Conference 2017(於台湾国立大)を実施した。同パネルでは機能不全に陥った国家横断的なエネルギー・インフラを機能させるための地域ガバナンス(地域エネルギー・ガバナンス)は,旧体制化で発展した産業構造が時に阻害要因となり機能しないこと,特に途上国においてはエネルギー貧困解決が環境問題よりも優先されやすいことなどを指摘した上で,それらを解決しうる国際公共財を提供し得る大国や地域機構の登場が不可欠とした。だがそれは,環境安全保障問題については当該大国の環境政策・規範に左右されやすいとも考えられる。また,当該大国の衰退はエネルギー・ガバナンスを再度機能不善に陥らせるため,各ステークホルダーが関与する地域機構や国際機構の強化が重要と結論づけた。
なお,昨今のエネルギー資源環境の変化は本プロジェクトにも直接的な影響を及ぼしている。そこで,計画とは異なり研究成果を直接書籍にするのではなく各メンバーが国際ジャーナルに積極的に投稿を行うことでより精緻な議論を研究成果に反映させる。その上で,理論的な議論を深化させた上で書籍として纏める計画である。
2017年8月