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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

国際労働力調達競争下における日本の外国人雇用制度のあり方
-給源アジア諸国事情に関する国際カンファレンス-

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授
安藤 光義

1.課題と方法

本研究の目的は、外国人技能実習制度について、人権問題という視点に限定せず、外国人労働力調達を巡る国際競争という視点からの把握を目指し、労働力送出し国の間で互恵的な受入れ制度のあり方の検討を、農業労働力の実態に即して行うことにある。具体的には、科研費(B)「農業の労働力調達と労働市場開放の論理」(研究代表者:堀口健治)での3年間の研究成果を踏まえ、国際会議を開催し、日本の外国人技能実習制度の理解を深めてもらうとともに、送出し国の事情や考え方について情報収集を行うものである。

2.研究の成果①―シンポジウムの開催―

2016年9月10日にタイ王立タマサート大学東アジア研究所において「日本の外国人農業労働力市場―技能実習制度に対する送出し国の評価とアジア国際労働力移動における日本の位置―」をテーマに国際会議を開催した。日本からの報告だけでなく、タイの政府技能開発省および雇用省から各1名、日本での実習後タイに帰国した2名、タマサート大学のソムチャイ教授も報告を行った。このシンポジウムを通じて、①アジアの先進国の間で外国人労働力を巡る競合関係が生まれていること、②アセアンの中心国であるタイにも相当数の外国人労働力が流入していること、③日本におけるタイ人の技能実習生が得た経験とそれに対する評価、④日本の技能実習制度をタイ本国の農業教育に組み込んでいくという動きがあることなどが明らかとなった。

2017年3月30日に東京大学において「外国人技能実習生の受入れを巡る現状と課題」をテーマにシンポジウムを開催した。①中国では経済成長によって送出しの制約に直面し始めていること、②それに代わって日本ではベトナム人が急増していること、③気候の制約から8ヶ月間の滞在しかできない高冷地野菜産地・長野県が抱えている問題、④農業分野と比較対象となる製造業での外国人技能実習生受入れの現状などが明らかにされた。

3.研究の成果②―成果物の刊行―

タイでの国際シンポジウムについては、その概要を研究代表者である安藤光義がとりまとめ、「国際労働力移動と外国人技能実習制度―タイでの国際シンポジウムからの報告―」『農村と都市をむすぶ』2017年1月号として刊行した。

外国人技能実習生を巡る最新の状況については、研究メンバーの堀口健治が、「日本における外国人労働力の増加と農業への関わり方・その重み」『農村と都市をむすぶ』2017年3月号に、タイでの国際シンポジウムにも参加した茨城県結城市の農業生産者である稲葉吉起がタイの技能実習生を受け入れの実際について、「タイの農業高専卒業生を受け入れる露地野菜組合・その展開と発展」『農村と都市をむすぶ』2017年3月号に発表した。

4.残された課題

外国人技能実習生という歪な形ではあるが、国際労働力移動は農業分野でも着実に進んでおり、アジア諸国の経済発展の進展に伴い送出し国が中国からシフトし始めると同時に各国間で活発な移動がみられることが本研究から明らかになった。中国から他国へのシフトがどのように進んでいるのか、特にベトナムの事情の究明が今後の課題として残された。

2017年7月


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