サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > オンライン大規模実験による「集合知」と「集合愚」との葛藤メカニズムの検証

研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2015年度

オンライン大規模実験による「集合知」と「集合愚」との葛藤メカニズムの検証

日本学術振興会海外特別研究員
豊川 航

動機・目的
 本研究の目的は、参加者同士の同時インタラクションを構築可能なWeb実験によって、「大規模な集団における群衆行動/集合知メカニズム」の実証的解明を目指すことである。
 集団が大規模になるほど、集合知の効果は大きくなるだろうか?集合知の理論からは、大きな集団ほど、大数の法則により集合知効果がより大きくなると予測される。一方、多くの社会心理学/進化人類学での研究からは、大規模集団であるほど個人は強い同調バイアスを示すという傾向が示されている。同調バイアスが強いと、変動する環境において、群衆行動に陥るリスクが増えると予想される。果たして、集団サイズの増加によって、コンドルセの陪審定理からくる「集合知効果」と、同調バイアスの増大がもたらす「群衆行動のリスク」とは、実際の人間集団の中でどのように作用するのだろうか。
 これまでに行われてきた同調研究の多くは、4~10名程度の集団を用いた小規模実験に限定されてきた(Bond, 2005)。しかし、情報化社会における集団の大規模化がもたらす2つの効果の対立─「集合知効果」と「群衆行動リスク」との対立─を実証的に解明するには、大規模な集団を用いた実験研究が不可欠である。

研究手法
 Amazon’s Mechanical Turk を用いて参加者を集め、オンライン上で不確実性下の意思決定課題を行った。課題は、社会情報の参照できる非定常多椀バンディット問題を用いた。得られた行動データに基づき、各参加者について強化学習と社会情報利用とを組み合わせた計算論的モデルのパラメータを推計した。  
 

結果・考察
 定常環境では大きい集団ほど成績が良かった(集合知効果)。一方、非定常環境では大きい集団ほど成績が悪かった(集合愚効果)。個人レベルの行動戦略分析から、この集合知と集合愚との葛藤は、集団サイズが大きくなるほど多くの「多数派同調」戦略が出現したためであると考察される(図)。   

図

図. 集団サイズの増大に伴う、多数派同調行動の増加。横軸が集団サイズ、縦軸がそれぞれ多数派同調(△)、少数派同調(◇)、および個人学習(○・点線)を行ったと推定された参加者の割合を示している。集団サイズが4以下の場合には社会学習を行わない個人学習者の割合が最も多かったが、集団サイズが大きくなると多数派同調戦略をとる個人の割合が最も多くなった。  
 
 

課題・見通し
 本研究での知見は、人間が強化学習的課題において、いつ・どのように社会的学習を行うのかについての定量的理解をもたらす。今後は、消費者生成サイトなどを通じたオンライン上の情報伝達から実際の人々の意思決定はどのような影響を受け、それがマーケットへいかなる影響をあたえるのかに迫りたい。   

 

 ※日本学術振興会特別研究員PD(総合研究大学院大学・University of St Andrews)

 

2017年5月

サントリー文化財団