成果報告
2015年度
加賀藩関連資料を用いた近世日本食文化の総合的研究
- 埼玉大学大学院文化科学研究科 博士後期課程
- 畑山 智史
(1) 研究目的
日本食文化の歴史を辿ると実際は、江戸時代においても文献史学のみからの指摘であり、関連領域である考古学等からの明確な議論がなされていない。その要因として、これまで考古学において、その分析主体が土器や石器等で、食物残滓である骨や貝などは注目されなかった点が挙げられる。我々は、この食物残滓に注目し、遺跡より出土した骨や貝の検討を実施し、得られた知見に基づいた近世食文化の解明を研究目的とした。
(2) 研究の成果
① 近世金沢の遺跡を分析し、武士と町人の利用食材の一端を明らかにした。
広坂遺跡などの分析と整理作業
② 近世富山の遺跡を分析し、その利用食材一端を明らかにした。
富山城下町(2015年度地点)の分析
③ 東京大学構内遺跡の再検討し、謎であった魚骨資料についてアカガレイと同定できた。
④ 一般公演会「金沢の食文化―遺跡に眠る動物たち―」(加賀藩食文化史研究会)を開催した。
⑤ 「遺跡出土資料を用いた日本食文化の研究」と題して、中国・広州の暨南大学で発表した。
(3) 進歩状況
概ね良好である。予定通り、金沢での一般公演会を実施できた。当日の様子は、富山新聞でも報道された。現時点での金沢の武士に関する遺跡での食物残滓の概要は明らかにできた。ただし、未報告の資料は存在する。また町人に関する遺跡でも資料が存在し、現在も調査中である。
(4) 研究で得られた知見
① 上級武士と下級武士、上級町人の間で利用種や貝殻サイズの共通点や差異
② 外洋に面した金沢に適した利用食材→チョウセンハマグリ、コタマガイ、イワガキの多用
③ 17世紀前半まで獣肉の利用(新たな事例の追加) → 文献資料との矛盾
④ 北方系貝類の確認(金沢・富山) → 北前船由来か?
⑤ 東京大学構内の遺跡においても、日本海由来と考えられる魚骨を確認
(5) 今後の課題と予定
国元である金沢と富山の武士に関する遺跡の食文化は、概ね明らかにしつつある。また江戸の藩邸についても日本海産魚類の存在を立証でき、今後、更なる資料が増加すると考えられる。しかしながら町人に関する食文化は、今年度上半期に着手できたばかりであり、その解明が課題である。
助成により金沢で一般公演会を開催した。さらに東京大学埋蔵文化財調査室の協力の下、2017年度に更なる資料を追加した内容での一般講演会を開催予定である。助成期間は終了したが、本研究は今後も継続する。
2016年9月