成果報告
2015年度
近代日本における自立的地域文化創生事業の研究
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滋賀県長浜市江北図書館の事例に即して ─
- 公益財団法人江北図書館 館長
- 冨田 光彦
(1)研究が可能に至った経緯
公益財団法人江北図書館は和洋漢韓の図書のほか、伊香相救社資料や伊香郡役所資料など、全国的にも希少な地方資料を、ほぼ完全な形で所蔵している。しかし、年間230万円程度の歳入で、耐火・耐震・防犯の備えのない木造モルタル作りの狭隘な建物の当館では、その安全な保管と有効な活用は不可能で、宝の持ちくされ状態にあった。何とか突破口を開こうと、2007年に当館の設立100周年記念式典を開催したところ、それを契機に大手マスメディア各社によって当館は広く世に紹介されるようになった。2013年に「第35回サントリー地域文化賞」を受賞し、それを原資として、所蔵史資料の整理・分類、目録の作成に着手することができた。さらに、2014年には滋賀大学と当館の間で当館所蔵の史資料の「使用貸借契約」が締結され、滋賀大学において史資料の保管と活用が図られることになった。さらに、2015年6月にはサントリー文化財団研究助成の交付が決定され、研究推進の環境が整った。
(2)研究対象・目的及び研究体制
サントリー地域文化賞を原資として進めていた文書群の仮目録が、2015年6月、研究助成決定と軌を一にして完成した。そこで、今後の研究体制と研究内容を当館評議員の筒井滋賀大学経済経営研究所長と他数名の評議員及び理事長で検討し、以下を合意した。
ⅰ)研究対象資料: 所蔵資料は、伊香郡役所文書、伊香相救社文書等7群、資料は簿冊も1点と数えて合計2,196点にのぼるため、研究は以下のようにする。
① 資料の全貌を把握するため、資料の「解題」を作成する。
② 全国的にも極めて珍しいとされる伊香郡役所文書と、わが国福祉事業の嚆矢とされる伊香相救社文書を対象とした研究を優先する。
ⅱ)研究目的: 研究対象とする伊香郡役所文書及び伊香相救社文書はともに、明治・大正期の地方創生に極めて重要な役割を果たしてきた組織であるため、これらの文書検証を通じて現在における地方創生について何らかの示唆を得る。
ⅲ)研究体制: 文書が広範・多岐にわたるため、共同研究者は江北図書館理事長と評議員数名、及び研究者として府県市町村誌等の編纂に関わった者が望ましいとし、資料の解読の進捗に合わせてその内容に応じて研究者の構成を見直すことを可とする。
(3)研究の進捗状況
ⅰ)以上の合意により、8月24日研究会を開催。共同研究者の合意を得て研究を開始。
ⅱ)江竜滋賀大学助手・久岡琵琶湖疎水記念館学芸員により仮目録を点検。久岡が解題及び文書関係の目録を完成。その後研究会を数度開催、関心部門別に研究を推進。
ⅲ)資料の全貌の具体的な把握が進むに従い、研究対象が予想していた以上に広範多岐にわたることが分かってきた。そのため、当面は本研究会のテーマである「江北図書館が果たしてきた地域創生の歴史的意義を検証し、今後の文化的街づくりの推進し資す」研究を視野に置いて、そこに至る過程として、「各文書群の中でのテーマを分担し、各々研究を深める」こととし、その結果を「地元湖北地域の住民を対象に報告し、地域の理解と連携を図りつつ事業を展開して行く」ことを研究の重点とした。
ⅳ)進捗状況、以上により、研究会を適宜行い検討を重ね、下記の成果を得た。また、「サントリー文化財団助成研究フォーラム」を公立木之本公民館で開催し、研究成果の報告と、塩見昇前日本図書館協会会長をパネラーに迎えパネルディスカッションを行い、研究成果の地元への還元を行った。
(4)研究で得た知見と課題
明治・大正期の伊香郡民のアスピレーションの強さに強い感銘を受けた。これをいかに現代社会に反映させることができるか。大きな挑戦である。
研究目的達成には、相当の覚悟が必要であるとの認識を新たにした。
2016年9月