成果報告
2015年度
食べて飲む営みと場の「多機能性」からみた大阪論
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21世紀的新盛り場論
- 大阪府立大学人間社会学部 教授
- 酒井 隆史
一年めにひきつづき、2015年も、盛り場についての研究を、実践・文献両面からすすめていった。本年は一年目にあがった論点を深める、というかたちで基本的に展開している。2015年において特筆すべき点は、
1,昨年度の報告書にもあるように、本研究会では、「盛り場」の概念を、固定された場ではなく、「さかる」という動的な「出来事」として捉え、現在の盛り場のありかたを、高度成長的盛り場からポスト高度成長的盛り場への過渡期として位置づけたが、本年度、その趨勢を把握するためのひとつのフィールドとして「ウィスキー・バー」が浮上した。ウィスキー・バーは、現在でも大阪のみならず全国でも非常に根強く支持されているが、現在は希薄となったものの、かつてはある種の「オーラ」すらまとっていた「洋酒文化」の担い手であり、それはたんなる飲酒文化を超えて日本のとりわけ戦後文化総体を支えるひとつの重要なフィールドである。それにくわえ高度成長以前から現在をつらぬくその存在と言説の変容をみることで、「飲む」という営為とコミュニケーション、都市における「場」の生成をめぐる、ひとつの重要な視点がえられるとの見通しをえて、文献とフィールドワークから研究を深めた。
2,本年度は、大阪を地域比較のうちで捉えるべく、北九州において本格的なフィールドワークをおこなった。「角打ち」ブームを迎えている北九州に焦点をあわせた理由は、本研究会がひとつの探求の領域としている「立ち飲み」文化について、とりわけルーツについて、知見がえられるのではないか、ということ。そして、北九州という中国大陸や朝鮮半島との交流も活発な領域に注目することで、東アジアという大きな地理的視野から、立ち飲みもふくめた飲酒文化についての発見がえられるのではないかという見込みからである。北九州では、酒文化研究者でもある釜山からの研究者(経済学者、社会学者)二名に案内され、北九州の立ち飲み文化の現況をのぞき、さらに韓国における酒文化研究の成果について議論をかわすなかで、国境をこえた飲食文化と、その相互交流、そして歴史について考える機会をえられた。当初の見込みはややはずれたが、朝鮮と日本の深い酒をめぐる習慣やコミュニケーションの相互交流について、近代史のなかから考察する端緒がえられた。
3,さらに本年度のひとつの焦点は、キャバレー文化である。キャバレーについては、本研究会の当初よりも重要なフィールドであったが、本年度、研究会としても本格的に取り組みをはじめた。全国的にはほとんど瀕死であるキャバレー文化であるが、かろうじて大阪にのみいまだそれなりの存在感をもって残り、「昭和の恐竜」的なおもかげをみせている。それは、戦前のカフェーからはじまり、戦後にいくつかの変質をこうむりながら、盛り場の文化のひとつの「華」でありつづけた。わたしたちは、歴史、音楽、「あしらい」、セクシュアリティ、労働といった複数の側面から、その豊穣な文化にアプローチをおこなっている。
2016年9月