成果報告
2015年度
国際連合(国連)による金融制裁の法的問題― 金融制裁の正統性・実効性の追求
- 関西学院大学国際学部 教授
- 吉村 祥子
研究の成果・進捗状況
本研究は、国際連合(国連)が発動する経済制裁のうち、金融上の手段(資産凍結や送金停止等)に焦点を当て、法的問題を検討・分析し、より正統性・実効性の高い金融制裁とは何かを考察することが目的である。2015年度の研究期間中、研究代表・共同研究者に加え、本研究に高い関心を有する研究者・実務家の方々の出席を得て研究会を2回開催し、内容の濃い研究報告と様々な専門や立場を反映した活発な議論が行われた。研究代表者及び共同研究者による学術論文や学会研究報告の形で、成果の公表も行われている。
研究で得られた知見
国連憲章上の規定に基づき安全保障理事会(安保理)が決定し発動する経済制裁は、国際法上は合法であり、1990年代より形成されてきた「スマート・サンクション(賢い制裁)」方式も定着している。
一方、金融資産の国境を超えた移転の容易さなどの特性を鑑みれば、金融制裁は物品の輸出入など貿易を制限・停止する形態の経済制裁とは異なる側面を有している。例えば、制裁に違反する物品の輸出入については税関での現物没収などといった形で対応することもできるが、制裁に違反する金融取引や資産凍結を確実に実施するためには、国境管理のみではなく、金融機関や政府が送金停止等の実効的な措置を講じる必要がある。また、「スマート・サンクション」に基づいた制裁措置が発動されたとしても、民間金融機関や国際取引の観点からは、当該制裁によって生じると考えられ得るリスクを見越した行動を取らざるを得ないことがしばしばあり、「スマート・サンクション」の目的に即した結果を得られないこともある。
国連による経済制裁の中でも、特に技術的進歩などの事由から、金融上の措置による制裁はより新しい課題を提示している。また国連、国家、企業といったアクターごとに、異なる法的問題が存在し、正統性・実効性の捉え方も異なっている。
今後の課題
一般的に、これまでは物品の輸出入などが経済制裁の具体的措置として考えられ、研究や政策提言も様々に行われてきた傾向があるように思われる。しかし、金融上の措置による経済制裁については、物品の輸出入制限措置等に関する理論や実践と異なるアプローチが必要であるのではないだろうか。今後は、ケース・スタディや国際関係の視点も加えつつ、国連の金融制裁に関する課題を発動・履行・適用の異なる次元で考察し、研究に参加して下さった方々も含めつつ、研究報告や書籍等の刊行といった形で研究成果を公表していきたい。
2016年9月