成果報告
2015年度
再生可能エネルギーによる地域再生の人文社会科学的解明、知見の国際的移転、
そして理論と実践の相互作用による人的ネットワーク形成
- 京都大学大学院経済学研究科 教授
- 諸富 徹
研究の成果および進捗状況
本研究の目的は、「エネルギー自治」を通じた地域の再生と持続可能な発展を実現するための方策を、国際的な研究ネットワークの協力の下に探求する点にある。再生可能エネルギー(「再エネ」と略す)は、それが「分散型電源」であるために、地域が主体となって発電事業を興し、得た利潤を地域に再投資することで、地域の持続可能な発展を促す手段としても活用できる。問題は、分散型電力システムの担い手は誰か、という点にある。
本研究ではこの点に関し、2016年4月16日と7月16日の2回にわたって京都大学で研究会を開催した(「研究助成報告書」の「1.研究活動の実施状況」の項を参照)。第1回研究会では、本研究プロジェクトの共同研究者が、日本とドイツで再エネを地域で推進する主体について報告し、討論者を招聘した上で、集中討議を行った。具体的には、地域エネルギー事業体の創出は、ドイツで最も進展しているため、「シュタットベルケ(エネルギー公社)」を中心に、ドイツに関する複数の報告が行われた。また日本に関しては、(1)日本の戦前における公営電気事業の歴史的系譜とその現代的可能性、(2)再エネと農山村の再生、(3)再エネと社会的企業の可能性、に関する報告が行われた。
第2回研究会では、日本で先駆的試みを進めている自治体を招聘し、各地で起きている新しい動きの可能性と課題を共有した。具体的には、①長野県・飯田市、②北海道・下川町、③岡山県・真庭市、④岡山県・西粟倉村、⑤福岡県・みやま市、⑥静岡県・浜松市、⑦東京都、の各地域における地域新電力の経営者、もしくは自治体の担当者を招聘し、再エネ発電事業の推進に向けた事業体構築の試みについての報告を行ってもらった上で、本研究プロジェクトの共同研究者が討論者として問題的を行い、討論を行った。
共同研究者には、第1回研究会のために準備した報告論文に、第2回研究会で得られた成果を踏まえて加筆修正を行い、学術誌『経済論叢』(京都大学経済学会)に、完成稿を投稿してもらった。これらは、本研究の成果に関する特集号として、2016年10月末に刊行される予定である。
研究で得られた知見、今後の課題
本研究で得られた知見は、以下のとおりである。ラウパッハ、中山、山下、諸富の4名は、上記研究会と並行して、長野県飯田市をはじめ、いくつかの地域における再エネ・ビジネスモデルの経済効果(地域付加価値)の定量的把握を手がけ、地域の所得と雇用に、再エネビジネスがいずれも好影響をもたらしうることを明らかにした。これらの結果は、民間企業が主体となった再エネビジネスを取り扱ったものである。
他方で、さまざまな理由から、こうした民間企業が育たない地域もある。その場合は、公共部門が中心となって公益的なエネルギー事業体を創出する必要がある。ドイツのシュタットベルケは、エネルギー公社と訳されるが、エネルギーだけでなく、公共交通、上下水道、廃棄物などの公共インフラを総合的に管理する公共的な事業体である。彼らは近年、再エネに力を入れるとともに、配電網を所有して分散型電力システムの構築に注力、さらに、エネルギー事業で上がってきた収益を、他分野に投資することで市民に利益還元している姿が明らかになった。これは、日本にとって大いに参考になる。
他方、西野が明らかにしたように、日本でも戦前には農山村の電気組合や大都市における電力公社がいわば公益的な事業体として推進されたという歴史的伝統がある。現代の日本でも、宮永と清水や、第2回研究会で招聘した自治体が明らかにしたように、地域で再エネを推進するさまざまな事業体構築が進行中である。今後は、ドイツや日本の歴史的系譜を踏まえ、現代日本に相応しい、地域の再エネ発電事業推進主体となる公益的な事業体のあり方を、より深めて研究していくことが課題となる。
2016年9月