成果報告
2015年度
戦間期における日本の対東アジア政策:政治外交史・経済史による複眼的考察
- 甲南大学経済学部 准教授
- 平井 健介
本研究は、政治外交史と経済史の複眼的視点から、戦間期における日本の東アジアへの関与の実態と意義を学際的・国際的に検証するのを主たる目的とした。従来の経済史による戦間期に関する理解は、統計によって構造論的に捉える傾向が顕著な一方で、政策を左右ないし決定する人物や政策自体に対する関心が気迫である。むろん、政治外交史による理解は、政治指導層の人的思考や政策に関心が集中する反面、経済史が得意とする構造的要因となる経済要因への関心が欠落してしまう場合が多い。
以上の学問的なアプローチの差異を踏まえ、本共同研究は、経済の構造的動態を踏まえつつ、政治や経営の人的要因から戦間期日本の東アジア政策を掘り下げて検証するとともに、それを規定するアメリカや植民地との関連も考察範囲に含むことで、より立体的に東アジアの実像に迫ろうとした。戦後70周年を過ぎた本年、新たな資料の発見もあり、戦前期日本の東アジア政策についての関心は改めて高まっている。しかし、当時の日本の政策は当然アジアの植民地やその他の対外政策にも大きな影響を及ぼした。それゆえ、日本のみの視点から考察するのは正しくないうえ、かつ正確な事象の理解へ繋がらない。本共同研究はこの問題を十分に意識した結果、専門分野に幅がある日韓台米各国の研究者(総勢14名)によって構成され、研究会や学術シンポジウムの開催を通じて、多面的・重層的な東アジア像を政治外交史と経済史による複眼的なアプローチから示すのを試みた。こうした国際性を担保した多様な陣容を組むことにより、戦間期日本の東アジア政策に関して国境を越える理解の構築に挑戦できたと考える。
本共同研究の最大の特色は、政治外交史と経済史よる学問的地平線の相互越境に(border crossings)によって政治外交史における経済要因の重要性、あるいは経済史における政治外交要因の重要性を相互に認識し、従来存在するそれぞれの歴史領域に横たわる壁を取り除くことにより、歴史研究に新たな展開を模索することにあった。両大戦間期は、日本が政治と経済の両分野で様々な問題に直面し、それへの対応の失敗から日中戦争・太平洋戦争の要因が生まれる時代でもある。政治外交史では、アメリカによる国際協調の主導(ワシントン体制)や中国の自立化のなかで、日本が対中政策と対米政策を両立させられなくなったこと、他方経済史では、日本経済を支えてきた自由貿易体制が国際金本位制の崩壊・ブロック経済化・中国の自立化を通じて後退し、日本は帝国経済圏に依存せざるを得なくなったことが明らかとなっているものの、両分野ともなぜ日本が対応に最終的に失敗したのかという問題には答えていない。その背景には両分野が研究の精緻化を進めるあまり、相互の対話を欠いてきたことが挙げられるよう。このような対話を可能としたのが本共同研究の最大の成果であると考える。
なお、共同研究の最終成果は大学生用のテキスト及び一般書レベルの書籍としてまず関西学院大学出版会から来年度の早い段階において刊行予定である。原稿もほぼ揃っており、あとは版元の編集担当者と連携しつつ、出版するための細かな作業が残されている。たほう、この度の共同研究を通じて新たな知見を多く得られたため、共同研究の過程をお招きした外部研究者の論考を含める学術書の刊行も目下検討中である。すでにある出版社と打ち合わせを行っており、よい感触を得ている。このように本研究を通じて二つの成果の誕生が期待されている。
2016年9月