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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2015年度

与党事前審査制度をめぐる政府・議会・政党関係の学際的実証研究

学習院大学法学部 教授
野中 尚人

全体の取り組み方針・実施状況

2年間にわたった本研究では、与党による事前審査制度を主題として、国会での法案審議プロセス、与党の組織やガバナンスの構造との関連、国会法・規則などの法制面などを含めた多面的な関わり合いの状況、そしてそこから生じている様々な特質・問題について、学際的に、また実務者や政党幹部からの聞き取り調査を駆使しながら明らかにすべく調査研究を進めてきた。

第1年度は、主として実務経験者(衆参両院の事務局と自民党の事務局)、ならびに議運・国対などを経験した有力な国会議員からの聞き取りを行い、与党事前審査とそれを受けた国会での法案審議の実態についての情報収集を行った。これを受けて第2年度の2015年度には、主として研究者・学者からのヒアリングと意見交換を行い、知見の整理とさらなる分析の展開を進めた。

最近の業績-特に、奥健太郎編著の『自民党政治の源流-事前審査制の史的検証』(吉田書店、2015年)-を踏まえつつ、以下の3つの視点を重視した。1.外国の事例との比較検討、2.憲法・法律などの隣接研究領域の知見の取り込み、3.事前審査制度と全体としての日本政治の関連性についての検討、である。

これまでに得られた知見

2年間の研究活動によって得られた情報と知見について、簡単にまとめると以下のようになる。

  • 1. 与党の事前審査制度は、単に与党の内部の仕組みとして存在しているのではなく、立法プロセスの全体的な構造と密接な関係があり、国会における法案の審議パターンと不可分。特に、国会において与党議員が極端に不活発な点などは重要な特質。
  • 2. 国会でのいわゆる「国対政治」の具体的な仕組みが、実質的に自民党内の派閥システムによって運営されていたことが明らかになり、政務調査会での族議員活動が「脱派閥」的であったことと好対照をなす。自民党内の事前審査は脱派閥であるが、国会対応は派閥依存に近いという組み合わせ。
  • 3. 民主党時代の対応は、自民党が与党だった時代と比較した場合、様々な点で組織化・制度化が不十分であった。この点が、党内プロセスに続いて行われる国会での審議体制の弱体さ・不安定性と深く関連していたことが分かった。
  • 4. 法制面から見た場合、やはり日本の体制には一定の特有な面がある。例えば、イギリスも含めてヨーロッパの多くの国々ではprelegislative scrutiny(立法前審査)の制度化が進められているが、これは日本での与党内での事前審査の仕組みと大きく異なる。
  • 5. 地方議会においては、与党会派に対して一定の説明活動を行う例が見られるが、国政におけるシステマティックな与党による事前審査制のようなものは存在しない。
  • 6. ヨーロッパの主要な議院内閣制では、議会内の会派の役割と活動が重要で、議会での審議が始まる以前のprelegislative scrutiny(立法前審査)についても、あくまで議会内の仕組みとして行われている。議会の外側の与党内部での活動ではなく、基本的に全会派が参加する形で実施される。

今後への展望

以上、与党による法案の事前審査制度と国会審議のあり方とが表裏一体の密接に関係にあることが確認された。また、特に自民党政権時代の法律案作成と審議のプロセスにおいては、党内ガバナンスの柱であった派閥システムが、政調会での事前審査段階ではなく、むしろ国会の内部において重要な役割を果たしていたことが分かった。

また、その上で、日本の地方議会はかなり大きく異なる仕組みで運営されていること、ヨーロッパでは事実上与党による事前審査の慣行が存在しないことも確認できた。

立法プロセスの研究は我が国でも相当な蓄積があり、また国会論についても様々な考え方が提示されてきている。しかし、依然として日本の国会の特質を実証的な側面から十分に検討し、それを比較議会論・比較立法過程論として展開するには至っていなかった。その基本的な理由は、与党による事前審査制度と国会の実態・過程との密接な関係、いわばこれらの間の表裏一体の関係がほとんど分析されていなかったことにあると思われる。私自身、これまで、国会のガラパゴス化というまとめ方で、本会議の弱体化や委員会の質疑偏重、与党議員の極端な不活発さ、討論や修正活動の消滅といった問題を採りあげてきたが、本研究によって、その裏側がどのようなものであったのかが、克明に明らかになってきた。

今後は、こうした知見をベースとしつつ、比較政治学的な観点から、法律や歴史学を交えてさらなる検討を進めることが出来よう。

2016年8月


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