成果報告
2015年度
日本の酒類の多様化とグローバル化に関する実証研究― 経済学・経営学の新たな視点から ─
- 一橋大学経済研究所 教授
- 都留 康
本報告の目的は,「日本の酒類の多様化とグローバル化に関する実証研究」の現段階で得た知見をまとめ,今後の課題を明確にすることにある.
酒類の国内販売(消費)の数量は,1996年度の966万キロリットルをピークとして減少し,2013年度には,96年度比の89%(859万キロリットル)まで減少した. 1人当たりの年間酒類消費量をみると,全体の消費量よりも早く1992年度の101.8リットルをピークに減少し,2013年度には,94年度比の81.3%(82.8リットル)にまで減少した.
こうした酒類の国内市場の収縮に伴い,酒類の輸出が増加してきた.2004年に37,477キロリットル,104億75百万円であった酒類輸出は,2014年には,それぞれ87,796キロリットル(234%増),293億351万円(280%増)となった.
2014年の輸出の内訳は,国・地域別では,①アメリカ,②大韓民国,③台湾の順である.品目別では,①清酒,②ビール,③ウイスキーの順である.品目・国別の組み合わせでは,①清酒はアメリカへ,②ビールは韓国へ,④ウイスキーはフランスへ,となる.
これまでに,清酒,ビール,ウイスキー,本格焼酎に焦点を合わせて,日本産酒類のグローバル化の実態調査を行ってきた.各酒類とも着実に輸出を伸ばしている.その一方で,各酒類のさらなる海外展開には課題も残されている.
まず清酒の場合,国際的評価基準の定まったワインとの競合がある.また,ビールの場合,低価格帯での寡占的巨大メーカーとの競合,高価格帯でのクラフトビールとの競合がある.さらにウイスキーの場合には,国際的な高評価の一方で原酒不足という問題がある.最後に本格焼酎の場合には,各国固有の蒸留酒文化(中国の白酒など)の壁をなかなか越えられないという課題がある.
今後の研究予定としては,以下の2つを考えている.第1に,現在得られている資料やデータの深掘りを行い,サブタイトルにある「経済学・経営学の新たな視点から」の解釈を深めることである.第2に,追加の研究資金を得て,輸出先での流通やエンドユーザーによる消費実態を観察し,輸入側の情報を充実させていくことである.幸いにして,後者に関しては,サントリー文化財団より,本研究の「フェーズII」のご決定を頂いた.本研究と併せて学術論文にまとめる予定である.
(注)本稿は,次の4名の共同研究者の調査レポート(未定稿)の一部を要約したものである.記して謝意を表する.佐藤淳(日本経済研究所・執行役員,清酒担当),加峯隆義(九州経済調査協会・総務部次長,ビール担当),伊藤秀史(一橋大学教授,ウイスキー担当),中野元(熊本学園大学教授,本格焼酎担当).
2016年9月