成果報告
2015年度
国際政治学における知的輸出のための若手研究者グループ形成事業・フェーズⅡ
- エセックス大学政治学部 専任講師
- 千葉 大奈
本研究プロジェクトは、アメリカ合衆国の強い知的影響下にある国際政治学の理論研究、実証研究について、①日本のオリジナルな視座を活かした先端研究を行う若手研究者をグループ化し、ネットワークとしてつなぐこと、そして、②海外の共同研究者との協働を通じ、研究成果を国際的なジャーナル誌で発表していくことを目標とした。
成果は複数あるが、第一に安保理決議が一般国民に与える効果の多様性をめぐる研究を実施した。仮想のシナリオをインターネットを利用して被験者に読ませるサーベイ実験手法を用いた。参加メンバーの過去の研究成果がEuropean Political Science Associationやロンドンスクールオブエコノミクス(LSE)のブログポストへ寄稿招待を受けたこともあり、国際的にも反響が大きい本テーマについて、広い意味での「追試」を行うことでより精緻な研究を国際的に発表すべく活動した。具体的には、神戸大学の多湖淳が主導する共同研究チームが国連安保理決議の実験を担当し、千葉と多湖、稲増一憲(関西学院大学)の共同研究チームが新しい論点である国際司法裁判所の判決効果の実験を担当した。国際司法裁判所の研究は安保理決議とは異なるものの、国際組織が各国の民意形成に対して、波及的にいかなる影響を与えるのかを研究するもので、理論的な発展といえる。現在、論文を投稿準備している段階にある。
第二の成果は、安全保障分野において、経済的相互依存など特定の情報刺激が引き起こす現象を研究する国際共同研究プロジェクトを進めたことにあった。これに関しては、2015年3月23日から25日まで国際研究集会(Kobe Sakura Meeting)を開催し、そこで研究の中間発表と今後の方向性に関する議論を行った。なお、中には具体的に論文刊行につながった研究があり、たとえば、Shoko Kohama, Kazunori Inamasu and Atsushi Tago, "To Denounce or Not To Denounce: Survey Experiments on Diplomatic Quarrels," Political Communication (forthcoming)は、本助成による研究成果である。
申請者である千葉大奈のほか、アムステルダム大学の田中世紀、神戸大学の多湖淳、北海道大学の小濵祥子、関西学院大学の稲増一憲、早稲田大学の大槻一統、一橋大学の松村尚子など、若手研究者のネットワーキングをはかり、具体的な研究成果を刊行していくにあたり、サントリー文化財団の助成は不可欠なものであった。ここに厚く御礼を申し上げる。
2016年8月