成果報告
2015年度
日本の夜の公共圏― 郊外化と人口縮減の中の社交のゆくえ
- 首都大学東京都市教養学部 准教授
- 谷口 功一
1.研究の目的
本研究は主として夜間に営業する所謂「スナック」業に関し、それが驚くべき数の軒数が現時点でも営業・存在しているにも関わらず、一切の学術的研究の対象となっていない点に着目し、そこから日本の夜の社交の場たるスナックとは一体何なのかを明らかにしようとするものである。法学、政治学、歴史学、文学、統計学など一見、スナックからは縁遠く見える諸分野から、スナックとは何かを浮き彫りにしようとする野心的な試みでもある。
2.研究の進捗・成果
本研究会は、数度の事前会合を経た上で2015年10月から本格的な研究会体制を始動し、研究代表者の谷口による冒頭報告で、スナックに関するこれまでの数少ない知見の整理と今後の研究の方向性に関する話を皮切りに、おおよそ月例のペースで各自の専門分野からするスナックに関する分析を報告してゆく形で進められた。
法学・政治学分野からは、それぞれ憲法(宍戸)・刑法(亀井)・行政学(伊藤)の専門的知見を活かし、法的規制対象(風営法、風適法など)たるスナックの法的位置づけに関して詳細な議論が行われ、スナック自体が法的には極めて多面的な規制を受ける存在であり、そうであるからこそ業態としての「定義づけ」にある種の困難が伴うことが改めて浮き彫りとなった。
また、主として歴史的な観点(苅部・河野・井田・高山)からは、スナックの登場に至るまでの前史を、上は上代から下は大正・昭和期まで、それぞれの専門に沿う形で各々極めて簡明に略述しつつ、それらの前史が如何に現在のスナックの存在へと連なり、また断絶を伴っているのかもが明らかにされた。
以上の他に本研究会における成果の白眉としては、全国に存在するスナック全件に関するローデータの雛形の入手と、それを元にした統計資料の作成と分析(荒井)が挙げられる。第一次的なローデータは第3回の研究会にゲスト講師としてご参加頂いた平本氏が個人的に作成されていた数十万軒に及ぶローデータである。これを元にした市区町村別のスナック全軒数データと、それを数十に及ぶ各種公的統計上の数値とを付き合わせた相関、及びNOAA(アメリカ海洋大気庁)が提供する人工衛星経由で得られた夜間光量平均データ(stable light)とスナックの分布を付き合わせた分析を行った。これらに関してはGIS(地理情報システム)とも照合され視覚的に驚くべき資料が作成された。
3.今後の展望
本研究会は2016年7月末をもって第一期を終了したが、引き続き2017年7月末までの継続助成を受けることとなった。この間、上記の定例研究会の成果(報告)を各自で原稿化し、2017年早々に論集として白水社から刊行する予定となっている。また、これとは別個に本研究会の成果も元にする形での代表者の谷口による単行著作の刊行、及び、研究会関連の公開講演会・シンポジウムなどの開催も予定している。
2016年8月