成果報告
2015年度
オーラル・ヒストリーによる戦後日本映画史の再構築
- 早稲田大学政治経済学術院 客員教授
- 谷川 建司
本研究は、スクリプター、殺陣師、美術等映画製作の現場の様々なスタッフ、更に配給・宣伝担当、劇場スタッフなど、様々な形・多様な経路で映画文化の創出に携わってきた人たちの経験を参照可能な形にアーカイヴス化する作業を通じて、映画文化発展の特質を社会的・経済的側面に着目して解明することが目的で、一年間の活動(ゲストを招いての研究会の開催・メンバー各自によるインタビューの実施)を通じて、15名程度のオーラル・ヒストリー・アーカイヴスを構築する予定でスタートした。
先ず、ゲストを招いての研究会の開催については、12/12(土)(於、早稲田大学)、3/6(土)(於、京都・国際日本文化研究センター)、4/2(土)(於、早稲田大学)の計三回開催し、それぞれインタビュイーとして泊懋氏(東映東京撮影所⇒企画本部⇒TV部⇒東映アニメーション社長)、奥村朗氏(イマジカウエスト)、原正人氏(日本ヘラルド映画宣伝部長⇒ヘラルド・エース社長⇒アスミックエース エンタテインメント社長)から貴重な話を伺うことが出来た。そして3名のインタビューはそれぞれテープ起こしを行ない、研究会メンバー全員が参照可能な形に整えた。
次にメンバー各自によるインタビューの実施については、一年間で計10名のインタビューのテープ起こし補助活動(共有アーカイヴス化)を行なった。具体的には、緒方用光氏(元満洲映画協会)、橋健彦氏(元パラマウント映画関西支社宣伝担当/元日本ヘラルド映画関西支社宣伝担当)、上野隆三氏(殺陣師)、井関惺氏(映画プロデューサー)、渡辺繁信氏(東映動画)、蕪木登喜司氏(東映動画)、鳥居元宏(東映の脚本家)、橋本潔氏(テレビ美術)の10名である。
3回の研究会でのインタビューのテープ起こしに加えて、これら10名のインタビューのテープ起こしを本研究会の予算にて行ったことで、本年度一年間で計13名の貴重な証言をオーラル・ヒストリー・アーカイヴスとして整理することが出来た。
本研究会自体、引き続き2016年度も継続できることとなったが、それでも二年間の時間的・予算的制約の中では十分なボリュームのオーラル・ヒストリー・アーカイヴスを構築することは難しいという観点で、本研究会とは別に、新たに2016年度より三年間の予定で京都大学人文科学研究所の外部教員主宰の研究会として別途研究会を組織することとなった。それぞれに性格の異なる枠組みでの研究会であることを鑑み、2016年度からは、主として映画の製作プロセスに係った人々へのインタビューを本研究会で実施して行き、映画が出来上がってから観客に届けられるまでのプロセス(宣伝・興行など)、特に京都または京阪神という地理的な条件に当てはまるインタビュイーを対象とするインタビューを京大人文研にて行なっていくこととした。
最終的には、本研究会の二年間の成果と京大人文研での三年間の成果とをリンクさせ、計50~60名ほどの映画関係者のオーラル・ヒストリー・アーカイヴス構築と、その抜粋としての証言集の出版を目指したいと考えている。
2016年8月