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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2015年度

東北地方における古津波堆積層の考古学的研究― 古津波災害科学の提唱 ─

東北大学大学院理学研究科 博士後期課程
駒木野 智寛

1. 本年度の概要

今年度は、昨年度から継続して下記の2点の研究を実施した。
(1)東北地方における古津波被災遺跡データベース作成を継続するとともに、現地調査による古津波堆積層の簡易発掘と撮影、採集土壌の粒度分析を実施し、被災遺跡の位置同定が不可能な場合は表面採取した考古遺物の検討によりデータを集積した。
(2)東北地方における古津波堆積層の形成過程と考古遺跡の関係を分析するにあたり、地域的特徴を明確にするため、他地域における古津波堆積層との比較検証を実施した。

主な研究対象地域である東北地方の太平洋沿岸部で現地調査の充実化を図るとともに、台湾島東海岸と西海岸では周辺の離島を新規の研究対象地域に加え、古津波堆積層の堆積過程と考古遺物の観察結果に基づき古津波襲来時期の分析を進めた。また、昨年度に現地調査した日本海沿岸部の新潟県の佐渡島、三重県の志摩半島と兵庫県の瀬戸内海沿岸部については、古津波履歴に関する文献資料の精査を実施した。

2. 本年度の成果

東北地方で考古遺跡を包含する主な古津波堆積層は、青森県深浦町椿山、岩手県洋野町種市、宮城県気仙沼市大谷海岸、山形県酒田市飛島西海岸で確認している。

山形県酒田市飛島西海岸については、古代に官制の大規模な製塩遺跡が存在したことを考古学的な現地調査と地中レーダ調査と3D画像の作成により明らかにしており、今年度は既にデータベースに利用可能な画像とデータがある上記の4地点に加えて昨年度現地調査した新潟県佐渡市西海岸、三重県志摩半島、兵庫県瀬戸内海沿岸部、台湾島東海岸などの調査地点については、GIS(地理情報システム)により周辺の遺跡分布図の整備を実施した。また、東北地方全域の沿岸部と内陸部の考古遺跡を対象に時代別の遺跡数と立地の変化を図化することで、古津波の襲来した範囲と襲来の前後における人口移動の可能性について検討した。

また、昨年度発見した台湾島東海岸の巨大津波の襲来や自然災害により被災した考古遺跡と出土した考古遺物の調査結果については、周辺海域の離島を現地調査の対象に加えることで補足するとともに台湾島西海岸における現地調査の充実をはかり、台湾や中国の出版物を中心に古津波襲来履歴の先行研究の収集を継続と出土遺物の標識遺跡である十三行博物館を再訪して台湾の研究者と意見交換することで、西日本の考古学研究者との意見交流に役立てた。

現時点での結論ではあるが、東北地方の太平洋と日本海沿岸部の古津波堆積層で発見される被災遺跡は、古代以降の塩田の形成に関係した考古遺構である可能性が高く、台湾島においても沿岸部に塩田が形成された時期に被災した考古遺跡が多いものと考えられる。

3. 今後の課題

今年度は古津波の襲来履歴について近年研究の集積が進む台湾においての調査と研究交流を継続するとともに、東北地方沿岸部の古津波堆積層の考古学的研究については資料補充のための野外調査を継続して実施した。本報告の提出前に従来の気象観測記録とは異なる経路をたどった台風10号が岩手県沿岸部の岩泉町や北海道南部に甚大な被害をもたらした。自然災害の履歴調査は、台風による高潮、土石流など他の自然災害と巨大津波の襲来による古津波堆積層の形成について混淆・並存というだけでなく、同じく海に囲まれた圏域における自然災害の伝承を確認しつつ、共通基盤に立脚した上で自然災害を地形・土壌という地域的特性を踏まえて分類し再検証を進める視点が不可欠であることを再認識させられた。

本研究における、古津波堆積層に埋没した考古遺跡を地中レーダと3D画像により立体的に捉え、土壌の堆積過程から被災原因となった自然災害を地形学の視点から慎重に同定し、堆積層と出土した考古遺物に年代測定の結果を反映することで、巨大津波襲来時の先人の災害対応の過程を明らかにする試みには、今後も重要な意義があると考えている。

東日本大震災の発生に伴う震災復興関連の遺跡調査はほぼ完了したが、古津波堆積層の考古学的研究は全国規模で現地の行政担当者を中心に進められており、本研究の蓄積を発展させるため、今後も国際的な研究交流と学際的な意見交換を継続し、古津波堆積層の形成過程の解明に重要な時期決定の資料となる被災した考古遺跡の地理的な分布の変化を捉え、出土した遺構と遺物の検証作業を地道に続けていきたい。

2016年9月


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