成果報告
2015年度
「開発協力大綱」の策定とアフリカ開発会議(TICAD)プロセスの新機軸に関する総合的研究
- 関西大学経済学部 教授
- 北川 勝彦
1992(平成4)年に制定され、2003(平成15)年の改訂を経た「政府開発援助(ODA)大綱」に代わり、2015(平成27)年2月には、新たな「開発協力大綱」が閣議決定された。新大綱の地域重点方針の中で、アフリカについては1993(平成5)年以来実施されてきた「アフリカ開発会議」(TICAD)プロセスを通じて官民一体となった支援を行っていくことが再確認された。本共同研究は、TICADプロセスの歴史と現状を検討しつつ、新大綱の下でアフリカに対する開発協力にはどのような新機軸が展開されるのか考察することを目的とする。
本共同研究では、以下の問題について考察してきた。まず、これまでのTICADのアジェンダをポスト冷戦期の国際関係の変動を視野に批判的に振り返り、とくに2015年以降の日本とアフリカの関係の中にどのような国際協力の具体的な展開が求められるかを検討した。(トゥクンビ・ルムンバ・カソンゴ)次いで、ガーナにおいて国際協力機構が実施してきたコミュニティに基盤をおいた健康管理の促進プロジェクトをとりあげ、それがコミュニティの人々にもたらした影響を評価するとともに国際開発における国家(ないし政府)の役割を再考した。(クウェク・アンピア)また、TICADプロセスがアフリカの政治経済の現状と変動に対応しているのかについて南部および中央アフリカ諸国を取りあげて検証した。(スカーレット・コーネリッセン)さらに、近年、ポルトガル圏アフリカ諸国のモザンビークとアンゴラに対する関心は急速に高まっており、TICADプロセスにどのように組み入れるべきかについて検討した。(ペドロ・アマカス・ラポソ)ところで、2100年には、世界の人口の47億人がアジアに、42億人がアフリカに、そして20億人がその他の世界に分布すると言われる。アジアとアフリカの関係は地球の将来を規定する重大な要因となることがわかる。このような将来展望を背景にアフリカと日本、あるいはアフリカとアジアの関係の中にTICADプロセスを広く位置づける必要があり、(峯陽一)とくにインド洋西海域から東アジアに至るまでのインドと中国を含めたアフリカにおける関係のあり方を考える必要がある(セイフデイン・アデム、アジャイ・デュベイ)ことが明らかにされた。
2016年8月27日~28日にケニアのナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)において「ナイロビ宣言」が発表された。この宣言では、3つの優先課題として、「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」、「質の高い生活のための強靭な保健システムの促進」、「繁栄の共有のための社会安定化の促進」が掲げられた。2013年の「横浜行動計画(2013~2017年)」はひき続き実施されるが、2019年に日本で開催されるTICAD VIIに至るまで「ナイロビ実施計画」は並行して進められる。本共同研究では、TICAD VI以降のフォローアッププロセスを引き続き分析する予定である。
2016年8月