成果報告
2015年度
アジア太平洋地域における経済的相互依存による世論の変化と国際紛争
- 大阪経済大学経済学部 専任講師
- 籠谷 公司
(1)国際ワークショップや国際学会の目的
2015年度研究助成を用いて、第3回東アジア安全保障ワークショップを大阪経済大学において開催した。また、ワークショップの中核をなす3名の研究者が中心となり、Pacific Peace Science Conferenceという学会活動を開始し、第一回年次総会を同志社大学で開催した。これらの活動の目的は以下の通りである。
アメリカが牽引している科学的なアプローチに基づく国際関係研究は、日本だけでなくアジアにおいても未だに少数派である。また、2008年の世界的な金融危機を受けて、アメリカのPh.D.取得者がアジア各国で教育・研究活動に従事するようになってきた。そこで、科学的アプローチを採用する若手研究者が孤立することなく、意見交換を行い、論文の国際誌への投稿を支持するような研究者コミュニティーの形成を目的としている。
(2)国際ワークショップの概要
リカードとハーシュマンの相対する古典的な命題は、市場の二面性を提示している。そこで、「国家間の共通の利益が戦争を回避する誘因を促すのか、」それとも「経済的依存状況が脅迫や対立を生み出すのか」を理解するために、共同研究を開始した。
上記の理論は社会的アクターを国民全体の厚生として単純化しており、政治リーダーの政策選択に影響を与える世論を分析枠組の中で明示的に取り上げてこなかった。そこで、アジア太平洋地域に焦点を当て、世論を組み込む形で経済的相互依存と国際紛争の関係性の研究を行ってきた。
これまでに分かってきたことは以下の二点である。第一に、第一次産品、中間財、最終財の貿易関係からなるネットワークが複雑になると、国家間の共通の利益を規定するのが難しくなるだけでなく、直接投資や海外アウトソーシングが産業内格差を生み出し、政治的争点が産業間対立から経済的格差へと変化している可能性を見出した。その場合、経済的格差に大きな影響を与えるマクロ経済が悪化すると、政治リーダーが国民の批判を逸らすために対外的に強硬な政策を採用し、国際紛争を引き起こしかねない。
第二に、アジア太平洋地域を考える場合、米国との二国間同盟ならびに在外米軍の駐留に対する世論も同時に取り上げる必要性が出てきた。戦後、米国の同盟国は、その経済成長を米国市場に依存してきた。この構造が冷戦後に不安定になっている以上、アジア太平洋地域の平和に欠かせない米軍の活動に対する正当性が維持されるかどうかも国際紛争の傾向を説明するであろう。
2016年度の継続助成では、上記の二点を深める形で研究を行う予定である。また、その成果を第4回東アジア安全保障ワークショップ、第2回Pacific Peace Conferenceで報告していく。本助成によってアジア太平洋地域の研究促進ならびにネットワーク構築ができた。研究代表者として、貴財団の温かい御支援に厚く御礼申し上げます。
2016年9月