成果報告
2015年度
欧州危機と新興市場の社会経済分析:学際的国際共同研究
- 一橋大学経済研究所 教授
- 岩﨑 一郎
本研究プロジェクトは,2008年の世界金融危機,2009年の欧州国家信用(ソブリン)不安,並びに2014年春に惹起し,いまなお進行中のウクライナ内乱から成る,欧州での一連の政治・金融危機が新興市場に及ぼす社会経済的影響を,多角的・実証的に解明することを目標とするものである。具体的には,上記に挙げた一連の金融・政治危機が,中東欧・旧ソ連諸国にもたらした乃至今後もたらすであろう外生的経済ショックの影響範囲やその程度を,これら旧社会主義新興市場に関する独自現地調査や実証データの統計的・計量的解析を通じて,仔細に検討する。欧州危機の学際的調査・研究は,その学術的意義の重大さにも係らず,未だ殆ど手つかずの研究領域として残されている。本研究プロジェクトは,この学術的空隙の克服を,学際的国際共同研究の枠組みで実現することを企図している。
以上に掲げた戦略的研究目標を効果的に達成するために,本研究プロジェクトでは,(A)中東欧・旧ソ連諸国の広範な比較を目的とする国家横断研究と,(B)中東欧・旧ソ連諸国の中でも欧州危機の影響が比較的顕著で,なおかつその様相が相互に大きく異なるチェコ,ハンガリー,ポーランド及びロシアの4か国に関する国別研究という,性質が大きく異なる2つの研究アプローチを同時並行的に進行させている。なお,後者の国別研究については,欧州危機との係わりで,これら4か国それぞれの社会経済情勢の理解にとって,最も重要かつ特徴的な問題領域を選択し,探求している。
2015年8月のプロジェクト正式スタート後,プロジェクト・メンバーは,研究代表者である岩﨑との協議を通じて設定した研究課題を達成するため,それぞれが必要な調査・分析作業に取り掛かった。例えば,ハンガリー研究チームは,企業経営者へのインタビュー調査を行い,チェコ及びロシア研究チームは,商用企業データベースや国家統計委員会提供統計データに基づいて,企業レベル又は地域レベルのパネルデータを編成し,欧州危機の経済的インパクトに関する独自の計量分析を試みた。かかる調査・分析作業から得られた研究成果の一部は,2016年第2四半期にかけて,国際学術雑誌であるRussian Journal of EconomicsやCompetition & Change誌に,厳格な査読審査を経て受理・掲載された。また,他のプロジェクト・メンバーは,中間的研究成果を,京都大学経済研究所及びハンガリー科学アカデミー付属世界経済研究所より,ディスカッション・ペーパーとして発表した。
今後も我々は更に研究活動を深め,究極的には,最終研究成果を取りまとめた論文集を,欧州有力学術出版社から2017年中に刊行する予定である。サントリー文化財団及び財団職員の皆様には,本プロジェクトに対するこれまでの御支援に対して,心からお礼申し上げる次第である。
2016年8月