成果報告
2015年度
LGBTのHIV陽性者における心と性のヘルスプロモーションに関する当事者参加型総合調査研究
- 放送大学大学院文化科学研究科 教授
- 井上 洋士
【背景・目的】
HIVは特定の性行為を通じて伝播しやすく、そのためLGBTなど性的少数者に広がりやすい。本邦のHIV陽性者は累計約3万人、年1500人の新規報告中8割が LGBT である。 LGBTのHIV陽性者は自身がHIV感染源という認識を余儀なく持ちつつ日常生活や性生活を送るうえ、[HIV=不治の恐ろしい病]という偏見が依然として市井にあり、外的・内的スティグマに苦しみ閉塞感を感じ生きづらい状況に陥りがちである。またLGBT関連スティグマも依然大きく、双方が心や性の健康を低下させている。しかしその実態は把握されておらず、彼らが心や性の健康を維持・増進できる支援的地域社会づくりの方略は明確ではない。そこで本研究は当事者参加型研究方式による全国調査を実施しLGBTのHIV陽性者でのスティグマ経験ならびに心や性の健康の実態を把握することを目的とした。
【実施状況】
2016年4月に、全国のHIV陽性者15名及び研究者4名、計19名からなる当事者参加型検討会議を実施した(於東京)。同会議では、上記調査研究の重要性は強く支持されたが、同時に、後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(通称、エイズ予防指針)の改定が2017年に行われることを受けて、我々が2013年~2014年に実施したHIV陽性者1,095名回答(日本国内在住の有効回答913人)の日本初の大規模HIV陽性者対象ウェブ調査結果を踏まえて、行政への要望書をエビデンスに基づいてまとめることが最優先という結論に達した。具体的には、厚生労働省担当部署への要望書を策定することとなった。
2016年5月には、要望書に入れ込むべき内容について大阪地区HIV専門医療スタッフにヒアリングをした(於大阪)。
2016年6月には、要望書に入れ込むべき内容及び「LGBTのHIV陽性者でのスティグマ経験ならびに心や性の健康の実態調査」として将来的に調査すべき内容について、沖縄地区のMSWにヒアリングした(於那覇)。
2016年7月には、全国の研究者13名及び当事者2名からなる研究者会議を実施した(於東京)。同会議では、要望書発表を優先したがゆえに遅れているLGBTのHIV陽性者でのスティグマ経験ならびに心や性の健康の実態調査実施時期を2016年12月から約半年間と設定し、その調査項目について分担者の割り当ても含めて検討を行った。
同年7月に、HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス経由で厚生労働省に提出、9月には、同要望書について日本記者クラブにて記者会見を実施、改めて公表と要望をした。
【研究で得られた成果】
要望書は、1.HIV陽性者のメンタルヘルス改善および相談先の充実に関する要望、2.院内他科、一般医療機関および介護福祉施設等との連携強化に関する要望、3.子どもを持つことに関する要望、4.依存症患者への回復支援に関する要望の4点にまとめ、公表することができた。実態調査については、その準備体制づくりができた。
【今後の予定】
当初予定していた実態調査については、2016年12月から開始するものとし、得られたデータを分析して結果を得る予定である。
2016年9月